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11時45分、予定より20分も早く、椿屋四重奏の面々がステージに登場! サウンドチェックのために自ら出てきたのだが、やがて聴こえてきたのは、なんと「らく~えんにいーこう、らく~えんにいーこう」という、あのフレーズ! そう、イエローモンキーの“楽園”だ!!!  去る8月2日、「04年7月7日をもって解散した」ことを正式に発表したイエローモンキー。中田裕二は、さらに「限りなき喜びは遥か遠く~」と“BURN”の一節を熱唱した後、こう言った。
「バトンはきっちり受け取りました」。
 胸がいっぱいになり、不覚にも涙が溢れてしまった。そんな人が、きっとこの場にたくさんいたことと思う。ライター失格だが、今の私にはこの感情をうまく言葉にすることができない。でもそれが悲しい涙じゃなかったことだけは、記しておきたい。

安全地帯を奏でたところでチェックが終了、メンバーはいったん袖に下がる。
そして12時5分。改めて、椿屋四重奏、ここに参上。
「灼熱のロックンロール・ユニバースへようこそ! 我々が心のロック貴族、椿屋四重奏でございます」。
先ほどの白シャツから黒のジャケット姿にオメカシした中田のご挨拶と共に、椿屋四重奏、ロック・イン・ジャパン「初演舞」の幕が落とされた。まずは“群青”、“成れの果て”。いきなり轟音が炸裂し、激情がほとばしる。紅や紫の照明がこの上なく似合うバンド=椿屋四重奏がこの炎天下の野外でどんな演舞を繰り広げるのか、個人的にはそれが非常に楽しみだったのだが、灼熱の太陽の影響なのか、今日の椿屋はその鋭角的なサウンドのエッジがさらに磨かれ、いつもより獰猛に猛り狂っている。圧倒的な存在感だ。
椿屋四重奏はこの国のロック・シーンに久々に登場した、煌びやかで妖艶なロックンロールを鳴らすバンドだ。だが、だからといってマニアックな音楽かといったら、それは全く違う。「一般の、普段はそんなにロックとか聴かない人に伝わったら勝ちだと思う」という中田の言葉が象徴的なのだが、椿屋のロックは、誤解を恐れずに言うならば、とてもわかりやすい。彼らは、歌謡曲の血の濃いドラマッティックなメロディを、胸をギザギザに掻き毟る鋭角的な激情サウンドに乗せることで、鮮やかに極上のロックンロールに昇華させている。そして、全編に施された過剰な戯曲性とその裏から滲み出る生々しさが蜜となり毒となり、妖艶な華を狂い咲かせるのだ。間口は広いがいったんハマるとずぶずぶと深みに引きずり込まれ、二度と戻ってこれなくなるこの上なくやっかいな、でもひどく素敵な魔性の音楽――それが椿屋四重奏だ。
“硝子玉”、“かたはらに”という色気と哀情に溢れた椿屋流恋歌を挟み、セットは再び衝動を掻き立てる“舌足らず”“空中分解”へ。白昼のレイク・ステージは、すっかり椿屋色=深紅に染め上げられている。
途中、中田がゆったりとセクシーにジャケットを脱ぎ、挑発的に客席を見つめた。と思ったら、道化のようにぴょこぴょこ跳びはねていき、脱いだジャケットをスタッフに渡す。こんなちょっとズレたパフォーマンスも椿屋の魅力だ。「艶ロックね、艶ロック。これからも椿屋四重奏にしかできないロック・エンターテイメントをやっていきたい所存でおりますので、どうぞよろしくお願いします」。実に頼もしい中田の言葉だ。
最後は日本語の悲哀ある情感の美しさが存分に発揮された“小春日和”できっちりと締め。「ああ、次はグラスでやりたいなあ~。俺たちはでっかい方が似合うと思うんだけどなあ!」というラブ・コールとも挑発とも、そして決意表明とも受け取れるMCを中田がかます。やってくれ。これからこの国のロックの一端は、確実にお前らが背負うことになるんだ――そんな期待と確信を一層強めた舞台だった。(有泉智子)

1. 群青
2. 成れの果て
3. 硝子玉
4. かたはらに
5. 舌足らず
6. 空中分解
7. 小春日和