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シンプルな、しかし目に鮮やかな真紅のワンピースを身に纏ってステージに登場した安藤裕子。たなびくような柔らかいキーボード・サウンドに乗せて、“はじまりの唄”を歌い始めた。最初は静かに、次第次第に情感が彼女の喉を震わせるようにして、ステージを見つめるオーディエンスにその歌声が届けられる。そしてギターの音が刻まれ、ダイナミックなドラムとピアノが加わるイントロが鳴り響く。9月にリリースが予定されているアルバムからの曲が歌いだされた。一瞬にして物凄い迫力のバンド・サウンド! そして安藤裕子が両の腕を左右に広げて波打たせながら、生命力そのものを全身で描き出すようにして歌う。

彼女は何かを語るでもなく、次々とその歌をSOUND OF FORESTに響かせていった。そしてオーディエンスは思い思いに体を揺らしたりしながら、一心に彼女の歌に聴き入っている。続いての“聖者の行進”では、ユニークかつストイックなリズムと清らかなピアノのフレーズの中を掻い潜るようにして、決意とともに力強く肯定する歌を聴かせてくれていた。安藤裕子って、こんなにパワフルに、エモーション剥き出しに歌う人だっただろうか?

“The Still Steel Down”を歌い終えると、さっきまでの歌声の持ち主とは別人のような、ただし安藤裕子に間違いないたどたどしい口調で、バンド・メンバーを紹介し始めた。なぜかそれぞれの出身中学を覚えていて、紹介に添えている。そして「皆さん、会えるうちに、大切な人の声を覚えておいてください」と深みのある言葉を告げて、最後の一曲を歌い始めた。これも来る新作に収録されている曲で、ゆったりとした曲調の美しいナンバー。安藤の歌うメロディが伸びやかに届けれられる。何か新しい決意を強く感じさせるような、そういうエネルギーに満ち満ちたステージであった。(小池宏和)