前週の予告編放送の時点から大きな反響を呼んでいた、甲本ヒロト出演の『ヨルタモリ』。
「ヒロトがテレビ出演」というだけでも貴重なのに加えて「“リンダリンダ”をセッション」ということで、
放送を観て感激された方も、RO69読者の中には特に多いことと思う。
実際、ヒロトは登場の瞬間から終始リラックスした佇まいだったし、
「岩手のジャズ喫茶マスター=吉原さん」に扮したタモリと
「オナラ談義」や「ハンダづけ談義」など、次々に異世界トークを展開していた。
そんな番組の冒頭、ブルーハーツ“情熱の薔薇”にちなんで白地に薔薇の着物に身を包んだ宮沢りえの
「ほんっとに、私の青春すべてです!」という言葉に対して、ヒロトはこう答えていた。
「僕はね、長い間、そういう世間の過大評価に悩まされてきてるんです。
『ガッカリさせてやろうか!』ぐらいの(笑)」
もしヒロト&マーシーがTHE HIGH-LOWS~ザ・クロマニヨンズではなく、
ブルーハーツをそのまま続けていたら――
「ビッグネーム」になっていたか「レジェンド」と呼ばれていたかは別として、
「結成30年の重鎮」として、それ相当の賞賛とリスペクトが注がれていたことだろう。
バンドが解散して20年経つ今でも、ブルーハーツへの「過大評価」は惜しみなく注がれているわけだから。
もちろん、過去にブルーハーツとハイロウズが活動を止めたのはそれぞれ個別に理由も事情もあるだろう。
が、それまで続けてきたバンドをほぼ10年ごとのサイクルでリセットするに至った背景には、
そんな「自分を『すごく』見せたくない」というアンチヒーロー精神がどこかで働いている気がしてならない。
とはいえ、彼らの音楽が時代を大きく変えてきたのも、
僕らがヒロトたちの一連の活動を賞賛し続け期待し続けているのも、
他でもないそのアンチヒーロー精神に裏付けられたソリッドなロックンロールゆえなのだけれど。
で、そのことはタモリもよくわかっていたのだろう。
「過大評価に悩まされてきた」と語るヒロトを、
「俺も長い間、過大評価に悩まされてきたんだよ」
と絶妙のタイミングでフォローして、ヒロトの笑いを誘っていたし、
“リンダリンダ”の歌詞について
「歌詞の作り方、ジャズだよ。全然違うこと言ってるもんね。《ドブネズミみたいに美しくなりたい》って。
あれは『美しさ』と『キレイさ』っていうのをちゃんとわかってる人じゃないと書けない」
と指摘して、思わずヒロトが「鋭いですね」と真顔で返していたのも印象的だった。
そして番組の最後、フラメンコギタリスト:沖仁とタモリのパーカッションによる“リンダリンダ”に合わせて、
歌こそ歌わなかったものの、ヒロトはブルースハープでセッションに加わっていた。
ヒロトがブルーハーツの曲を人前で演奏するのは、ブルーハーツ解散後ではほぼ初めてのことだと思う。
「感動して涙出ちゃった!」と顔を拭う宮沢りえに、ヒロトは照れ臭そうにひと言、
「恐縮です。過大評価ありがとうございます(笑)」。
ヒロトとタモリ……いくら「過大評価」しても足りないふたりの共演が、
日本が誇るロックアイコンの本質を浮き彫りにした、奇跡の一夜だった。(高橋智樹)