佐野雄大の姿はそこにない。ないはずなのに、どう考えても佐野雄大はここに居る。
ライブを観ている間ずっと、そんな不思議な気持ちだった。
急遽のメンバー不在というイレギュラーな状況で行われた「2023 INI 2ND ARENA LIVE TOUR [READY TO POP!]」Kアリーナ横浜公演は、INIの11人の絆の深さと大きな愛情、そして、どんな時も「11人分で」MINIを楽しませるのだという強い想いに溢れた感動的なライブだった。
ちょうど前日に「2023 MAMA AWARDS」の「Favorite Asian Male Group」受賞という栄誉もあり、いざ!というタイミングであったはずのこの日のライブ。メンバーがステージに登場した時、横並びにぽっかり空いた佐野のスペースにぎゅっと胸が締め付けられたが、ステージ上の10人は、彼の分も精一杯のエンタメを見せることをすぐに宣言してくれた。急遽のことだったからというのもあるだろうが、不在を「埋める」のではなく、その場所はきちんと「残した」ままにパフォーマンスしてくれたのがいちいち泣けた。私たちは確かに、そこに佐野の存在を見ることができたのだ。デビュー3年目に突入したINIは、歌やダンス、作品やライブの精度・深度を高める傍らで、こうした不測の事態をも一丸となって乗り越える胆力を蓄えてきていたのだなと思ったらまた泣けた。
具体的な「愛」もいっぱいあった。松田迅は佐野の分も全部ファンサすると言い張り実際にやってのけた。後藤威尊は佐野のゴーグルを身に着けていたし、時々佐野が憑依してた(尾崎匠海も同様)。髙塚大夢は佐野のアクスタをステージに何度も登場させた。池﨑理人は佐野のカンバッチをつけてた。言い出したらきりがない。メンバーがこんなふうに助け合っている姿を見て、もっと応援しようと思わないMINIがいるだろうか。みんなで叫んだ「大好き」も、一層想いが込もったよね。
偶然にも特別な一夜を目撃したもので、そのことに関する感想ばかりになってしまった。
楽曲のテイストごとにチャプターを分けたようなライブの演出ももちろん見事で、代わる代わる見せるいろんなINIの表情、熱のこもった歌声やキレキレのダンスに引き込まれたのは言うまでもないです。
このあとも怒濤の展開が続いていくINI。まずは佐野の回復を祈りつつ、11人が心身ともに健やかに、新たなフェーズを駆け抜けるところを追いかけていきたい。(安田季那子)