【コラム】さよなら、また今度ねとは、僕やあなたの「あの感じ」のことである

【コラム】さよなら、また今度ねとは、僕やあなたの「あの感じ」のことである

音楽を聴いていて、「あ、これ俺の歌だわ」と思うことがある。

あるいは、そこまで自意識過剰的な感想じゃなくても、「このバンドは本当によくわかってるなあ」みたいな。
それぐらいの体験はきっとほとんどの人がしているんじゃないだろうか。

さよなら、また今度ねがやっていることはまさにそれだと思う。
それは音楽を聴いているとそれなりの頻度で起こる経験/現象であって、むしろ音楽を聴く醍醐味と言ってもいいが、それにしても、このバンドがやっている「それ」の精度と頻度は図抜けている。
はっきりと図抜けた精度と頻度で「それ」をやっている。

というわけで、さよなら、また今度ね、と彼らがやっている「それ」について、ちょっと書いてみようと思う。

「それ」というのは、リスナーに「これは俺の歌だ」と思わせてしまう能力のことだ。

色気なく言えば、「感情移入を誘発する能力」。
ちょっぴり色気を含ませて言えば、「あなたわたしの声と心にムラムラしてるのね、と思わせるフェロモン」(いや、違うが)。
僕の言葉で言うなら、「個人の思いを普遍化する力」。
さらにそれっぽい言い方をするなら、「ポップソングを書く力」。

そう、僕は、さよ今がやっていることはものすごくポップソングである、と思う。

彼らが歌っていることは、本来、曲を書いている菅原達也にしかわからないはずの「個人的経験」だ。
だが、その「個人的経験」が、彼らの歌とメロディと演奏を経るとどういうわけか、「僕にわかるもの」になっている。
というか、むしろ、僕という人間をして、「これは俺のことをわかっている人が書いてくれた俺のための曲だ」と思わせしめるものになる。

つまり、「俺があいつであいつが俺で」現象。
それをハンパじゃない誘引力で巻き起こす。
楽曲のパワーで「それ」を巻き起こす。
そんな力を持った楽曲のことを「ポップソング」と呼ぶ。

この曲はその意味において、究極的なポップソングである。

菅原はこの曲の中でこう歌っている。

《「恋をするとお腹がポカポカするの」》

僕はそれなりにいい歳なので、お腹がポカポカしてしまうようなことはもうあまりないが、でも、この現象のことはそれなりによく知っている。
そして、「恋をするとお腹がポカポカする」という言い方は、「ドキドキするようなあの感じ」を言い表した言葉として、本当に正しいと思う。

僕は今、35歳になって気づかされてしまうのである。

「あの感じ」を言い表す言葉はきっとずっと前から、「ドキドキ」じゃなかったんだ。
ポカポカだったんだ。
しかも、「胸がドキドキ」じゃなかったんだ。
「お腹がポカポカ」だったんだ――。

そう言われると、もう「お腹がポカポカする」以外に、あの感じは歌えないような気がしてきてしまう。

さらに書いてみる。
菅原は《「恋をするとお腹がポカポカするの」》というフレーズに続き、こう歌っている。

《踊りながら君は僕の耳元でそう言う/僕はたまらなくなり/君を抱き上げた》

とてもロマンチックな曲である。
だが、きっと菅原はこの曲を耽美的でロマンチストな気分で歌ってはいないと思う。
むしろ、とても現実的な、この胸にあるこの感じを一番適切な言葉で綴り、実直に歌を歌おうとしただけだ、という気分でこの歌を歌っているんだと思う。

なにしろ、彼の世界では「恋」とはお腹がポカポカすることを言うんだから。
それ以外に言い方はないのだから。

そして、この曲を聴いた瞬間、僕の世界でも、あなたの世界でも、恋はお腹がポカポカすることを指すようになる。
こうして、概念は共有されていく。
どこまでも個人的に独立して生まれているはずの概念は言葉として共有され、果てしない不特定多数の人が無形のエモーションで繋がれていく。
こうして、菅原が名付けたポカポカ現象は一般的な、ポピュラーな概念になっていく。
そう、これがポップソングである。

僕がこの曲をこんなに愛する理由はほかにもあって、彼は恋というポップ現象を歌ったこの歌を、”クラシックダンサー”と名付けた。

タイトルの由来は知らない。
知らないが、菅原はきっと、「お腹がポカポカする」ことはもはや「クラシック」なことで、そのポカポカで踊る君のことを「ダンサー」だと言っているのだと思う。
とても正しいタイトルだと僕は思う。
そして、なんとロマンチックな曲なのだろうとも思う。矛盾した言い方で申し訳ないが。

菅原達也は本当に素晴らしい才能を持ったソングライターだ。
彼のやっていることは最高のポップソングであり、同時に優れた文学である。

というわけで、僕はこの曲を何度も聴き、聴くたびに何度も膝を打っている。
たまにはお腹がポカポカしたいと思いながら、何度も聴いている。

このアルバムは今、まさに発売中です。

さよなら、また今度ねについては、過去にも書きまくってます。
http://ro69.jp/blog/koyanagi/94309
http://ro69.jp/blog/koyanagi/94043
http://ro69.jp/blog/koyanagi/93047
http://ro69.jp/blog/koyanagi/89259
http://ro69.jp/blog/koyanagi/89008
http://ro69.jp/blog/koyanagi/88363
小栁大輔の「にこにこちゅーんず」の最新記事
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする