「今日」になる前に。Ariel Pinkが鳴らす「間」の音楽


Ariel Pink's Haunted Graffitiのニュー・アルバム『Before Today』がとんでもなくいい。この4ADと契約しての第1弾は、先行シングルとなった「Round And Round」(このわんこと人間のディープキッスのジャケットが目印)が「ローファイじゃない!ちゃんと録音されている!」ということでファンを驚かせたが、そもそもはAriel PinkことAriel Marcus Rosenbergのひとりプロジェクトで、彼は自宅のベッドルームでレコーディングした何百にものぼるといわれるローファイ・カセットテープを無造作に発表していたような人物。そのほかにも数百枚程度のアナログや自身の公式サイト以外でのネット公開などなど、その音源の全貌はおそらく本人にも把握できていないのではないだろうか。しかし、その独特としか呼びようのないジャンクなサウンド・デザインと頽廃的な美学センスが生み出す音楽は、もうとにかく美しいのだ。特に、この「ローファイではなくなった」新作『Before Today』は、60年代以降から現在に至るまでのポピュラー・ミュージックの歩みの、すべての裏通りが常人には理解の及ばぬ手さばきで次から次へと継ぎはぎされていく、イリュージョナルなトリップ。しかもその旅は、吐き気をもよおすような、見てはいけないアメリカの歴史の実相にも触れていくような・・・。目の前の世界を一枚剥いでみたら鳴っていた音楽、誰も見たことのない今日と明日の境目で鳴っている音楽、それがAriel Pinkだ。ともかく、乱用されすぎる言葉だけど、この人物には奇才の称号が本当にしっくりとくる。ぜひ一度、体験してほしい一枚。6月リリース予定。