ケンドリック・ラマーが新作について語るアップル・ミュージックのインタビューが感動的。


ケンドリック・ラマーの新作にして傑作『DAMN.』、もう聴きましたか? アメリカでは、『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』のような傑作に続く作品を作るのは至難の業と誰もが思っていたのに、それとはまた違った意味での傑作が完成したため大絶賛されている。

アルバムチャートでも今年初週の最高売り上げで1位を獲得したのみならず、レビューの平均点を出すサイトによると、96点と現時点で今年の1位になっている。
http://www.metacritic.com/music/damn/kendrick-lamar

この作品についてケンドリック自身が語ったアップル・ミュージックの貴重なインタビュー映像が公開されている。こちら。
https://itunes.apple.com/us/post/idsa.193137a0-2629-11e7-bb2e-fa528de050a0

ケンドリックの発言がいちいちカッコ良くて感動してしまうのだけど、最高のラッパーになるんだという決意から、オバマ元大統領が今作にいかに影響したか、いかに自分に厳しくしているのかなどを語っている。

この作品はケンドリックが自分自身の内面と深く向き合った作品になっているのだけど、実際どれだけ思想深く、どれだけ考え抜かれて作られた作品なのか彼の発言の一言一言からにじみ出て来る。さらに感動的なのは、彼が曲は自分のために作っているわけではなく、それを聴いてくれているコミュニティの人達の人生のために作っているということに対してものすごく自覚的であることだ。

インタビューは45分くらいあり、曲についても細かく語っていてそれも紹介したいところだが、ここでは、作品のテーマについて語っていることを抜粋したい。

1)まずこのアルバムの前に発売された"The Heart Part 4"で、”I am the greatest rapper alive!"(俺が今史上最高のラッパーだ!)と言っていることについて。

「本当にそうでなくてはいけないと思っている」「ヒップホップへの情熱は言葉にならないほどだ」「1曲だけ良い曲を作ればいいとも思ってないし、1カ所だけ良いフックがあったり、ブリッジがあればいいとも思ってない。毎回最高の曲を作りたいと思っている。そして、毎回最高のものを作るためには、俺自身に挑戦し続けなくてはいけない。自分自身と対峙しなくちゃいけない。そして俺が一番なんだと思わなくちゃいけない。それ以外はありえない」それが彼の原動力になっているということ。

また、これから10年後、15年後に、自分が尊敬してきたラッパーと同じような高い位置にいたいとも語っている。

「これはカルチャーであって、遊びじゃない。俺の地元の人達の中には、ヒップホップだけ聴いて生きている人達もいる。だから、俺が彼らの人生を代弁しなくちゃいけない。歌詞を書く時に、それを絶対に忘れてはいけないと思っている。聴いてくれる人達の人生のために、常に最高の自分でなくてはいけない。だって、そうじゃなかったら何のためにやってるんだ?」

2)『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』であのような反響を受けると思っていたか?
という質問に対しては、「間違いなくそう願っていた」と答えている。

「あの作品は俺のコミュニティで起きていること、世界で起きていることを、人と分ち合いたいと思って作った作品だった。さらに、あの作品では、その時のことだけを語っているのではなくて、未来のために語っている。未来の誰かを、未来のケンドリック・ラマーを助けることになると思っていたんだ。その人がその時にいる現状よりも、より良い場所に向かうことができるはずだと思って作ったんだ」

「だから俺にとってあのアルバムの”成功”は、数字や賞ではない。人々が、”オールライト”をストリートでプライドと威厳を持って歌ってくれたことこそが成功だ。なぜなら、自分の言いたいことを社会で言葉にできない人達のほうが多いから。人が自分達の人生をあの曲に重ねてくれたことは、俺があのレコードに込めた思いや考えが、俺を超えたものになったという証拠だから。『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』は、俺のやっていることは、ケンドリック・ラマーのためだけにやっているわけではない、ということを教えてくれた。その証だった」

3)『DAMN.』と『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』の違いについて。

「『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』は、『世界を変える』という概念を描いたもの。そのために俺達は何をして、どのようにアプローチすればいいのか、を描いている。それに対して、『DAMN.』は、『俺が変わらない限り、世界を変えることはできない』という概念を描いたものだ。だからそれぞれの感情だけを描いているわけではない。俺は自分自身を鏡で見つめ、それぞれの感情とそれにまつわる問題と取っ組み合っているんだ」
「リスナーの人達には、この2枚のアルバムを聴いて、自分達の中にある最高の可能性を見出してくれたら嬉しい」

4)また、トランプとの関係性についても語っている。
過去のインタビューの中で、現状に対して怒りを感じているので、「緊迫感のある作品になる」と語っていた。だから、この作品が怒り満ちたアルバムになると思っていた人も多かったのではかったかと思う。しかし、怒りが直接的に形になった作品ではなかった。

「もちろんフラストレーションを炸裂させたような曲も作った。だけど、彼に怒りを向けるのではなくて、怒りを感じているからこそ、今こそ、自分達が団結して、自分達で、自分達の問題を解決していくべきだ、と思った。それをこのアルバムは象徴している。」

投票で決まった結果が自分の思い通りではなかったことに対して文句を言っている場合ではない、というのがケンドリックの考え方だ。なぜなら、彼はそれが未来を変えると信じているからだ。そして、それはオバマ元大統領に会ったことに大きな影響を受けている。

5)「オバマ元大統領に会った時に彼が言っていたのは、『変化は、僕が大統領でここにいる8年の間に始まるわけじゃない。僕がここを去ってから始まるだろう』」
「彼が大統領になった時に、俺はまだ若かったから、彼が大統領になった瞬間に変化が来ると思っていた(笑)」。でもそうではないとオバマが語っていたことが、この作品に影響したのだ。

「それがこのアルバムを無意識のうちに影響した。なぜなら、彼の言葉が、自分の考えを自己検証する時にすごく影響したから。つまり、この瞬間だけじゃなくて、もっと遠くまで見つめなくてはいけない、と気付いた。今のことだけじゃなくて、次の10年に自分が何をやるのか考えていなくてはいけない。変化には時間がかかるということを念頭に入れておかなくてはいけないと思ったんだ」

6)そして最後にこのアルバムを一言で表すなら、「自己規律についてのアルバムだ」と語っている。

「いかに自分の感情をコントロールすればいいのか、ということ。そして人とより近い結びつきを持ち、共感してもらうために、いかにしてそれを正直にレコードで語ればいいのかを考えた。自分をどうやってさらに曝け出せばいいのかを。自分が7歳、17歳、そして数年前(27歳)で何を恐れていたのか(”FEAR."で歌われている)、正直に語ることは簡単ではない。でも音楽というのは、俺のために作っているのではない。聴いてくれる人のため。そして聴いてくれた人達の人生を前進させるためにある。だから、無私ではなくてはいけないんだ。」

これだけ深い作品を作るために、ケンドリックがいかに自分を深く厳しく見つめたのか、この発言の端々から分かるのではないだろうか?そしてこの作品は聴けば聴く程、理解できる作品になっているのは、彼が深い思いとともに作ったからだと思う。

ひとつ面白かったのは、最近ケンドリックが母親から届いた新作の感想をツイートしていたが、その笑える内容の中で、母が「あなたは子供の頃から考えすぎるところがあったから」と書いていたこと。子供の頃からそうだったのか!と関心した。
また、地元の人達を代弁したいという気持ちを裏付けるように、コーチェラでヘッドライナーをしている合間に、地元コンプトンに帰ってサイン会もしている。
http://www.latimes.com/entertainment/music/la-et-ms-kendrick-lamar-compton-20170420-story.html
さらに、ケンドリックは、先日全米ツアーを発表した。

NYの日程は1日にしかなく、即売り切れるだろうと思ってドキドキしながらネットの前で待機していたら、なんとか買えてものすごくほっとしている。ライブレポートもする予定!

アルバムをまだ買っていない人は、とりあえず2曲のMVを見て欲しい。
"HUMBLE."

"DNA."
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