ブルース・スプリングスティーンがEストリート・バンドと2017年以来、6年ぶりに開始した最新ツアーに密着したドキュメンタリー映画『ブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンド:Road Diary』が、10月25日に世界で同時に配信開始した。日本でもディズニープラスで見られる。
予告編はこちら。
さらにこの映画のライブ音源がアルバム『Bruce Springsteen & The E Street Band-Road Diary』としても配信されている。
https://open.spotify.com/album/68vmTrzCatCqV4oTrjwbZy?si=jiqXoGV6QOmycDojpcY2zw
この作品は、9月に開催されたトロント映画祭で世界初上映されて、私も行って来たのだけど、スプリングスティーン他、監督のトム・ジムニーに、ジョン・ランドー(マネジャー/プロデューサー)、スティーヴ・ヴァン・ザント(G)も登場し、Q&Aも行われた。
スプリングスティーンは、『スプリングスティーン・オン・ブロードウェイ』から、『ウエスタン・スターズ』などソロアーティストとしてのドキュメンタリーをここ数年割と頻繁に公開しているけど、今作が他の作品と違うのは、あくまでバンドが焦点であること。2023年2月に、Eストリート・バンドとのツアーを6年ぶりに開始したことをきっかけに、バンドそのものについてを深く掘り下げた作品なのだ。
ライブというものがどのようなシステムで作られていくのか。もちろんバンドによって違うはずだが、説明できるようでなかなかできないことがこの映画では、これまでになく明確に浮き彫りになるのが、個人的にはまずひとつ感動したこと。さらに、バンドの今だけではなく、歴史も振り返り、さらに未来というか、このバンドが残すもの、についても描かれていると思う。
また、この作品で、バンド以外にもうひとつ重要なテーマは、死だ。死と、老いるということ。現在75歳のスプリングスティーンが、バンドメンバーの死や母の死と向き合っているし、自分の老いから、またここで初めて妻でありEストリート・バンドのメンバーでもあるパティ・スキャルファが2018年から癌の治療を行なっていることも明かされている。
映画のナレーションは、スプリングスティーンが自分で書いていて、それがまた重く感動的なのだけど、27歳で亡くなったジム・モリソンの“An American Prayer”の詩が引用される箇所がある。「ああ、偉大なる存在の創造主よ。我々のアートをパフォーマンスする時間をあと1時間だけ下さい。この人生を完璧なものにするために」。
さらに、ドキュメンタリー内で、“I’ll See You in My Dreams”のライブパフォーマンスが披露される。この曲を書くインスピレーションについては「(バンドメンバーで亡くなった)クラレンス(・クレモンズ)や、ダニー(・フェデリシ)も夢に出てくる」と語っていたけど、だから、「死は終わりじゃない/あなたとは夢で会えるから」と歌う曲で締め括られているのだ。
しかし、8月には、「サヨナラツアーは行わない。どこにも行かない」とも発言して話題となった。「Too Late To Stop Now」というヴァン・モリソンの引用もされているけど、「いまさら止められない」という、つまり動けなくなるまでライブをやり続けると宣言しているのだ。つまり、この作品は、死とアートとして永遠に残ることが刻まれているドキュメンタリーでもあると思う。最後には力強い希望が描かれているのがさすがすプリングスティーンだと思った。
それと、究極的には、この映画を観ている間中、映画が終わったらすぐにスプリングスティーンのライブに向かって駆け出したいと思う作品でもある。ヨーロッパツアーでの盛り上がりが映し出されているのだけど、日本にも来てくれよ!とも強く思わずにいられなかった。
以下、Q&Aの抜粋。スプリングスティーンが「明日死んでも問題ない」と語っていたのが、とりわけ強く心に残った。
司会はスティーヴ・ヴァン・ザントが行った。
まずスプリングティーンの語っていたことから先にご紹介。
●テーマのひとつである死ぬ運命について。
スプリングスティーン「ジョン(・ランドー)が死ぬ運命について語っていたけど、まず大事なのは、俺達みたいな仕事は世界にひとつしかないってこと。高校の同級生と、75歳になってもまだ一緒にいるんだから。18歳、19歳の時の友達と、それから、50年、60年経っても、まだ友達のままなんだ。そうやって長年友達でいると、彼らの成長も見るし、結婚するのも見るし、離婚するのも見るし、刑務所入りするのも見るし、出所するのも見る。子供の養育費を払い始めて、払い終わるところもまで見るんだ。歳を取るのも見るし、白髪になるのも見るし、そしてその友達の死に立ち会うことだってあるんだ。
だからみんなにも、親しい友達と、素敵な、そして最後まで全うするような経験をして欲しいと思う。また、一緒に過ごした時間が長いと、一緒にした経験によって、ちょっとした重さも加わる。『ブレードランナー』のワンシーンで、『自分が目撃した』ことを語る場面を思い出すけど。俺達も何年もの間に、かなりのことを目撃してきたからね(笑)」
ヴァン・ザント「この3、4年のソロプロジェクトから、『レター・トゥ・ユー』で、バンドに戻り、その制作過程においては、40年前の『ボーン・イン・ザ・ U.S.A.』以来初めて、Eストリート・バンドのアイディアを取り入れたと言えます。そのバンドとの偉大な関係性がこの映画にも繋がっているわけですが、今作で初めて、あなたのルーツやバンドのリーダーとしての方法論、バンドがいかにして成り立つのかの説明、どのように機能するのかなどが描かれている。現在成功する新しいロックンロールバンドがなかなか生まれてこない中で、それは偉大なことだと思うのです。自分が本当に“最後の1人”であると認識することは、自分がやること、究極的には観客とのコミュニケーションにどのように影響を与えますか?
スプリングスティーン「それは大きな質問だな(笑)。まず、そのためには、やることがたくさんあるから、その全てに自分の全てを捧げる。だけどバンドっていうのは、バンドであり、さっきも説明した通り、俺達は、お互いをすごく若い頃から知ってる。それに、ここまで長い間すごく良くやってきと思うんだ。これまでステージに立った全ての夜で。ステージに立つ全ての夜で、俺は、自分自身を危険に晒している。それが俺がやっていることなんだ。
ステージに登場し、自分が最も大事だと思うことについて観客に語り、自分自身を広く人にさらけ出している。だけど、バンドのメンバーと一緒にいるわけだから、俺1人じゃない。1人じゃないんだ。左を見れば、スティーヴィー(・ヴァン・ザント)がいる。右を見れば、ニルス(・ロフグレン)がいる。パティが参加できた時は、パティがいるのも見える。ジェイク(・クレモンズ)も見えるし、ジェイクを見た時に、クラレンスも見える。ロイ(・ビタン)に、もちろんマックス(・ワインバーグ)も。つまり俺は1人ぼっちじゃない。俺の持っているもの全てを危険に晒しているけど、でも1人じゃないんだ。そうことが続けられるバンドって数えるくらいしかないと思う。
バンドが解散するというのは自然なことだと思うから。それが物の順序でもある。だから、全てのバンドは解散する。ザ・キンクスだってザ・フーだって。たった2人しかいないバンドだって、続けられないわけだから。例えば、サイモン & ガーファンクルとか(笑)。サイモンがガーファンクルが大嫌いだから。サム&デイヴだって、サムがデイヴを嫌いだった。エヴァリー・ブラザーズだってお互いが嫌いだったし。2人しかいないバンドが続けられないわけだから、俺達のバンドが続けられる可能性って一体どれくらいだと思う?ものすごく低いってこと。すごく低いわけだ。
だけど、正しくやれれば。俺達のバンドには、“情け深い独裁制度”と呼んでいるものがあって、それに異議を唱える人はいないと思うけど。俺達は、小規模の民主主義制度があるバンドではないんだ。小規模の民主主義って成立しないから(笑)。そんなわけで俺達は、巨大な集団で、それぞれに大事な役割があり、それぞれに貢献する機会があり、バンド内で自分の居場所、というものが確保されている。
誰でも、自分の職場でそういうものを得たいじゃないかと思うんだ。だから、全ての人にとってそうあって欲しいと願う。誰もが、自分の仕事をそう思えるような、一緒に仕事している人をそう思えるような世界に生きているとは思えないから。でも、俺は、俺達のバンドにはそれができたんだ、と心から思いたい。自分の人生でこういう経験というのは、他ではできないことだと思う。だから俺は、明日死んでも問題ない。なんて最高の道のりだったんだろうと思うから」
以下監督とランドーへの質問。
ヴァン・ザント「あなたは、この24年間で、ブルース・スプリングスティーンとは映画のみならず、ビデオも40本作っています。この24年間で何が変わったと思いますか? またそれだけ長い間友人であることで得たことはありますか?」
監督「それは良い質問ですね。長い間に変わって良かったことは、時間と信頼関係だと思います。こんなに素晴らしい人達とここまで一緒に過ごしたすごく貴重な時間をもらえました。それから、ここまでの旅路を目撃させてもらえる信頼も得られました。また、何かを読み解くような瞬間にもコラボレーションできました。ブルースがバンドと新しい音楽を作る瞬間とか、また、バンドを色々な段階で目撃することもできました。ブルースと初めて仕事した数年がなかったら、今回の映画も作れなかったと思います。バンドのある時期や、バンドの歴史や、小さなことまで目撃できました。その時間があったから信頼も得られたのだと思います。だから皆さんに感謝しています。今日この作品を観て本当に感動しました。まるで自分が作っていないかのように感動したんです」
ヴァン・ザント「ジョン・ランドーとブルースの関係性はその2倍の50年にも及びます。それはEストリート・バンドとも同じくらいの長さで、あなたはほぼ全てを目撃してきた人です。あなたはこの映画の中で、今回のツアーは、『これまでのツアーとは違う』と語っていますが、それはなぜだと思いますか?」
ランドー「この映画が他の作品と違うのは、まず最新ツアーを追ったものであるということ。さらに、バンド全体の歴史と、ここにどのように至ることになったのかを総括し、偉大な洞察にもなっています。
70年代、私がまだ批評家だった頃からブルースがツアーをする際に感動したのは、初期の段階から、彼が偉大なビジョンを持っていたことです。全ての曲、全てのレコードに対して、彼は明確な目的を持っていました。しかも、非常に細いところに至るまで拘りに拘り抜いていたのです。それは、今もそうなのですが、それがより効果的にできるようになったと思います。私達が拘っているのは、我々を導く光に誠実であるということ。大事なのは、アーティスティックな目的があることでした。いまだにライブにバイタリティがあるのはそのおかげだと思います。私が関わったこの50年間のみならず、ブルースが初めてギターを手にした瞬間から、そのビジョンや原型は、あったと思うのです。
この映画が他の作品と違うのは、とりわけ、歳と取ることと、その過程について語られていることです。それでいて、同時に私達がいかに自分達のビジョンに誠実であり続けたのか、それをいかに深めようにとしているのか、さらに意味のあるものにしようとしているのか、まで描かれていて、それが素晴らしいと思います。
これは壮大なる冒険であり、その旅に自分が関われるというのは本当に素晴らしいことです。私はこの映画をもう50回くらい観ていると思いますが、この映画のテーマは非常に深くて観る度に新しいことに気付きます。ブルースがカメラを観て、ボイスオーバーで、『ここまでやってきたから、今さら止めることはできない(Too Late To Stop Now)と言います。ヴァン・モリソンは“Into The Mystic”という美しい曲を書きましたが、最後のブリッジとバースの間で、彼は、“今さら止めることはできない”と叫びます。
私が以前ロック批評家だった際、1971年に批評をまとめた本を出したのですが、その本のタイトルが、「It's too late to stop now」でした。それで、ヴァンに会った時に、本のタイトルの由来を話したら、『使用料を払ってくれ』と言われたんです(笑)。だから、編集室であのシーンを観た時に、ブルースに出会う以前の自分の人生と繋がりました。また、そのフレーズが、この映画の大事な瞬間に語られて、さらに映画が、“祈り”で終わるというのも、全く想像していなかったので、すごく美しいと思いました。トムは非常に美しい編集をしてくれたと思います。ブルースがそれを言い終わった後で、一歩下がって、ステージから去ります。そこが映画の大事なポイントになっていると思うのです。それに今日気付きました。あれ、質問は何でしたっけ?(笑)」
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