2022年3月12日に逝去し、本誌執筆陣の一人としても高い人気を誇った松村雄策の新刊著作『ハウリングの音が聴こえる』が3月22日に刊行される予定だ。
松村さんは本誌ロッキング・オンの創刊メンバーとして参加しながら、ロックミュージシャン(自称では「歌手」)としても活動し、1987年に『苺畑の午前五時』で小説家としてデビュー、その後はロック文筆家として活躍した。今回の著作は、文芸誌「小説すばる」に2014年から18年までに断続的に掲載された連載記事をすべて収録したもので、「小説すばる」を追っかけていなかったら、ほとんど初見となる原稿が揃っているという、とてもうれしいものだ。
松村さんの文章のスタイルは基本的にはエッセイ、それもロックを否が応でも聴かなければならない衝動を抱えるリスナーの生活者としての日常を綴るというもので、これは画期的なものだった。基本的に一般の日本人にとって松村さんが文筆活動を始めるまで、ロックとは非日常的なものだという思い込みがあったからだ。これを大相撲や落語、ラジオ、テレビ、自分の生活などの切り口から語りだしては、ロックアーティストについての考察へと落とし込んでいくのが松村さんの至芸の語り口だった。
これが本誌でも松村さんの人気の所以となっていたわけだが、ある意味で、今回の『ハウリングの音が聴こえる』ではその語り口のボルテージがさらに上がっている。というのも、連載誌の読者がロックファンだとは限らない一般読者であるため、松村さん特有の日常からロックへの引き込みと語りがなおさらドラスティックになっているからだ。とりあえず、好きな酒でも飲みながらこの本を読めば松村さんと飲んでいる気分になれるだろう。実際、ぼくもそんな気分になれた。
題材的にはポール・マッカートニー、ジョン・レノン、ザ・ビートルズ、ニール・ヤング、ザ・キンクスなど、松村さんの思い入れの強いロックアーティストがふんだんに登場するが、個人的に最も迫力を感じたのは、ジャックスや水橋春夫グループとの2014年のレコーディングを綴る語り口だった。 (高見展)
『ハウリングの音が聴こえる』
松村雄策・著
河出書房新社
2,200円(税込)
四六判変形・上製・256ページ
3月22日刊行予定
松村雄策の記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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