ザ・スマイル、前作から1年足らずで新作をリリース。異次元のロック実験の先に、彼らはどこに行き着くのか? 3rd『カットアウツ』緊急レビュー

ザ・スマイル、前作から1年足らずで新作をリリース。異次元のロック実験の先に、彼らはどこに行き着くのか? 3rd『カットアウツ』緊急レビュー

現在発売中のロッキング・オン11月号では、ザ・スマイル『カットアウツ』のロングレビューを掲載しています。
以下、本記事の冒頭部分より。



文=坂本麻里子

前作『ウォール・オブ・アイズ』から約8ヶ月後という、短いインターバルで登場するザ・スマイルの3rd『カットアウツ』。資料によれば『WOE』と同じ時期に録音された作品で、プロデューサーはもちろん、ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラ、ロバート・スティルマン他参加ミュージシャンも被る。また、8月に先行発売された2枚の両A面限定シングルに収められた4曲をはじめ、いくつかの楽曲は既に過去1年の間にライブで披露されてきた。アルバムタイトル自体が切り離されたもの、たとえば「映画他から削除された箇所」や「群れからはぐれた動物」を意味する言葉でもあり、色々な意味で、本作を『WOE』の姉妹作と位置づけるのは妥当だと思う。

では、これは一種のアウトテイク集?と早合点したくもなるが、蓋を開ければ秀逸な楽曲の連打で、むしろ『WOE』と本作を隔てたのは何だったのか?の方が気になるくらい。しかもトータルで言えば、後出しの『カットアウツ』の方が音楽的にはとっつきやすいのだから驚かされる。スローテンポの幻想的なバラードに吸い込まれたかと思えば、アフロビートや変拍子の飛び交う掴みの良いダンサブルな曲が揺らす。情報の密度/凝縮度が非常に高いコンポジション揃いで、ゆえにイマーシブだった前作よりも開放的でキネティックな、「歌」を味わえる1枚と言える。

パンデミック中に始動し、各種規制の下で制作された1st『ア・ライト・フォー・アトラクティング・アテンション』は文字通りのスタジオ作だった。それだけに多彩なアイディアが試験されたし、レディオヘッド期からの古い曲やトムのソロ曲も含んでいた。対して、観客入りのツアー体験を経て制作された2nd『WOE』ではバンドの性格とケミストリーが深化し、スタイルと音色を絞ると共に緻密なアレンジと質感が重視された。〝フレンド・オブ・ア・フレンド〟のような優れた例外もあるが、メロディの動きの幅は概して狭く、さりげなく奇妙なコード進行やエフェクト類の渾然一体が音空間を描き出す。名手トム・スキナーも、動的なビートよりもパーカッションの差し色を添える場面が多かった。オスティナートを軸に積み重ね、トーンを急旋回させ、抽象的で収束し切らないフィナーレに向かう——〝アンダー・アワー・ピローズ〟や〝ベンディング・へクティク〟といった映像的でコズミックな屈指の名曲は、彼らのひとつの頂点を刻んだ。そうした面は〝カラーズ・フライ〟や〝ドント・ゲット・ミー・スターテッド〟に継承されているとはいえ、『カットアウツ』収録曲はよりメロディックで、曲の輪郭とアイディアも把握しやすい——のだが、曲想の豊かさと融合の手際は相変わらず奔放かつ濃い。(以下、本誌記事へ続く)



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