ひょっとすると世界でジェフ・ベックのことを一番愛しているのは、日本のロック・オヤジ達ではないだろうか。追加公演を含め全国で10公演を行ったうち、僕が観たのは東京の追加公演だったが超満員。客のほとんどが50代以上の男性だった。
今のロック・シーンにおいてギターヒーローという言葉はほとんど使われなくなった。そんな時代にあって、ギターヒーローの古典的なイメージを70年代のまま守り続けている数少ない、いやひょっとすると唯一の存在かもしれない。69歳とは思えない若々しい容姿のジェフ・ベックが、トレードマークの白のストラトを弾いているところを観ていると、まるで時間が止まっているような錯覚に陥る。自分が20代~30代に戻った気分になってしまう。きっと会場を埋めていたロック・オヤジ達も同じ思いだったはずだ。
そんな奇跡を実現するにはいくつかの条件が必要だ。まず音楽が時代を超えた普遍性を持っていること。そしてパフォーマンスが加齢による劣化を感じさせないこと。新曲が往年の名曲達に拮抗するパワーを持っていること。そうしたことがクリアされないと単なる懐メロ・コンサートになってしまう。ジェフ・ベックは全てクリアしてみせた。だから客も懐メロを聴いている後ろめたさを感じることなく、演奏に熱中できた。
言ってみればストーンズ、ポールと同じ構造だ。しかしジェフ・ベックが違うのは、その奇跡に興奮しているのが日本の50代以上の男性に集中しているところだ。無論、世界にジェフ・ベック・ファンは多いが、その集中度において日本は突出していると思う。それは誇るべきこと、とオヤジの1人として思っている。
4日、NHKホール
(2014年4月22日 日本経済新聞夕刊掲載)
日経ライブレポート 「ジェフ・ベック」
2014.04.23 16:54