日経ライブレポート 「フライング・ロータス」

ジョン・コルトレーンを叔父に、アリス・コルトレーンを叔母に持つ、現在31歳のロサンジェルス出身の注目アーティストである。ヒップホップやエレクトロ・ミュージックを基本としながら、ジャズや民族音楽なども大胆に取り入れたスタイルはとても独自なものだ。最新作「ユーアー・デッド」は、これまで以上にジャズの色彩が強まった作品で、彼が新しいステージに立ったことを感じさせる傑作だ。今、英米の音楽メディアが今年のベスト・アルバムを選んだりしているが、この作品を選んでいるところは多い。

緻密に組まれたエレクトリック・ビートに繊細なジャズやヒップホップ、民族音楽のメロディーやフレーズが織り込まれていく彼の音楽世界は、実験的ではあるが決してとっつきにくいものではない。ほとんどの曲が3分前後で、ポップ・ミュージックのセオリーから極端に逸脱したものではない。ただ似たものがいない孤高のアーティストであることは間違いない。

ステージには2枚のスクリーンが幾何学的に配置され、そこに音楽と同じように緻密に計算された見事な映像が流され、彼のパフォーマンスと一体となって素晴らしいステージであった。基本、音のほとんどはデータ化されているので、彼はラップトップを叩くだけではあるが、映像と演出と存在感によって通常のライヴ以上に臨場感のある空間が作り出されていた。自分でも言っていたが幾分酔っ払っている感じでフラフラして、観客の笑いを誘っていた。きっとクラブ的な世界における一種のマナーみたいなもので、その辺も彼らしかった。彼の日本好きは有名だが終始上機嫌で「日本大好き」を連発していた。

12月5日、品川ステラボール。
(2014年12月25日 日本経済新聞夕刊掲載)
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