日経ライブレポート 「アルト・ジェイ」

全世界で100万以上のセールスを記録し、数々の賞を獲得したデビュー・アルバムに続いて、昨年の9月に発表されたセカンド・アルバムも全英1位、全米4位を獲得し、今や最も勢いのあるイギリスの新人バンドではないか。この日本公演の後も、アメリカではマディソン・スクエア・ガーデンでのライヴが予定されている。

ステージにはサポート1人とメンバー3人の4人が並ぶ。特別な演出はなく、ひたすら演奏の力だけで勝負する正攻法のパフォーマンスだ。CDで聴くと、コンピューターを使ったとてもメカニカルなサウンドのような印象を受けるが、ステージを観ると実は徹底してフィジカルなサウンドを追求しているバンドであることが分かる。本国イギリスでは彼らのサウンドを「フォーク・ステップ」と呼ぶことがあるようだ。つまりオーソドックスなフォーク・ミュージックを、とてもモダンでダブステップのような手法で表現するバンドだということだ。コーラス・ハーモニーの美しさや、メロディーの心地よさはまさにフォーク・ソングの正統的な後継者であることを感じさせる。そこにデジタルでモダンなビートが加わることによってアルト・ジェイ独自の世界が築かれていく。

しかしそのデジタル風ビートを叩き出しているのは人間の肉体なのだ。わざわざ人間がコンピューターのようなリズムを叩くのは倒錯した発想のように思えるが、実はそれが時代のビート感を的確に表現できる手法なのだ。言うまでもなく高い技術が要求されるスタイルだが、トム・グリーンのドラムは見事だった。

13日、TSUTAYA O-EAST。
(2015年1月27日 日本経済新聞夕刊掲載)
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