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    日経ライブレポート「ジェイムス・ブレイク」

    音響、照明、映像、全てが最高のレベルでコントロールされた素晴らしいステージだった。これまで僕たちはジェイムス・ブレイクのパフォーマンスを何度も体験してきたが、国際フォーラムのようなホールは初めてである。フェスやライヴハウスも良かったが、今の彼の音楽をしっかり体験するのはホールが一番なのかもしれないと思った。

    デビュー当初はダブステップという革新的なダンス・ビートの牽引者として活躍し、クラブ・シーンで注目を浴びたジェイムス・ブレイクだが、現在の彼の音楽はダンス・ミュージックというより、エレクトロニックな洗練された室内楽という趣だ。その世界観を楽しむにはコンサート・ホールはふさわしかった。これまで立ってしか聴いたことのない彼の音楽を座って聴く体験も新鮮だった。

    初期のヒット曲から、ビヨンセの最新作でのコラボ曲までキャリア全体から選ばれたセットリストはとてもバランスの良いものだった。個人的にはいつもやってくれるジョニ・ミッチェルのカバーを今回も聴くことができて満足できた。

    彼のステージを観るたびに思うのは、歌が常に進化を続けているという事だ。もともとはサウンド・デザインの斬新さが注目のきっかけとなったアーティストだが、彼の音楽の基本は歌でありメロディーだ。作品もどんどん歌が中心となり、彼の歌の表現力もその作品にふさわしい豊かさを持つようになっている。今回のステージでは、よりそのことを強く感じた。まさにヴォーカリストとしてのジェイムス・ブレイクに心を揺らされたライヴだった。

    2月25日東京国際フォーラムホールA。

    (2017年3月10日 日本経済新聞夕刊掲載)
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