アーティスト

    日経ライブレポート「グリズリー・ベア」

    2009年のサマーソニックで彼らのステージを観た時の印象は、とても繊細な音楽オタク集団という感じだった。洗練されたメロディー・ラインと緻密なコーラス・アレンジによって作り出される彼らの世界は、繊細な工芸品のような趣があった。

    それから4年。今回のライヴで彼らはまるで別のバンドのようにタフでダイナミックなパフォーマンスを展開してみせた。もともとあった絶妙のコーラス・アンサンブルや、繊細な曲構成は残しつつ、それに力強さと演奏の確かさが加わり、よりスケール感のあるライヴ・バンドに成長していた。

    2000年以降ニューヨークのブルックリンを活動の拠点とする新世代のバンドがいくつも台頭してきた中で彼らはその中心的な役割を担ってきた。産業的なポップ・ミュージックのトレンドとは距離を置いたところで、自分たち独自の世界観を築いてきた。少数派であることを恐れず、オタクと呼ばれても動じることなく進んできたのだ。

    ところが彼らの音楽は評論家から高い評価を得、いろいろなメディアから年間のベスト・アルバムに選ばれ、高いセールスを記録するようになる。そこで彼らは、その成功に戸惑うことなく、世界と迎合するわけでもなく、自分たちの世界観と音楽をこれまでと同じように深化させながら、よりタフでダイナミックなものへと作りあげていったのだ。

    最新作「シールズ」では、自分たちに成功をもたらしたスタイルにとどまることなく、次のステージに挑戦する姿勢を見せたが、その勢いがそのまま反映された力強いステージだった。

    5日、恵比寿リキッドルーム
    (3月19日 日本経済新聞夕刊掲載)
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