三十にして、既に天命を知る
エイモス・リー『真実をさがして』
2008年11月12日発売
2008年11月12日発売
エイモス・リーの3rdとなる今作。美しいコードと羽毛のように優しいギター、穏やか且つソウルフルなメロディは1stに戻ったような印象。が、1stとも2ndとも違うのは、彼の歌声がこれまでより力を帯びていること。よりクリアになった彼の声は、囁くような魅力的な声質はそのままに、低音部の伸びやファルセットが強くなっている。今作には実力派バック・ミュージシャンが大勢参加しているにも拘らず、ボーカルが浮き立つ曲が多いのは、彼の声の変化が理由の1つなのではと感じる。そんな声にのせる詞は、相変わらず平凡な男の生活やありふれた世界について。だがそんな詞の中にも人生・社会についての問題をそっと提起して去っていくような静かなアグレッシブさがあり、歌声と相まって心に重く響く。“かえらぬ日々”や “牢獄と爆弾”に見られるような、恋愛や戦争といったよく見られるテーマをシンプルな言い回しで、しかし内・外も客観・主観も存在しないような独特な視点で構築していく感性。ジャジーやブルージーという言葉だけでは表現し難い、悟りを啓いているとすら感じる洗練さが、今作にも充満している。(上田南)