リアルと空想を交ぜた物語的な歌詞と、どこか懐かしい歌謡メロディを操るシンガーソングライター・吉澤嘉代子の2ndアルバム。これまではどこか現実味が薄い楽曲が多かったが、今回はどの曲も、日常を生きる大人の女性が主人公。彼女たちは、お鮨にガリがついていないことを嘆いたりと些細な営みを繰り広げ、吉澤の歌声は優しくのびやかに、彼女たちの悲喜こもごもを包み込む。「日常を生きる大人の女性」＝主人公は吉澤嘉代子だ。彼女はライヴで、曲ごとにくるくると物語の主人公を演じ分ける。幼少期に魔女に憧れて箒で飛ぼうとしたり、変身願望も歌った彼女にとって、自分自身をハレの場でさらけ出すことには抵抗もあっただろう。私はそのエンターテイナーぶりも好きだけど、ちらりと見える生身の顔をもっと見たいと思っていた。そしてデビューから2年、自分の歌を聴いてくれる人たちに出会い、彼女にとっての日常もキラキラと輝き始めた。今作で彼女は、些細な日常のすべてを肯定した。せわしなくて孤独な東京を《うつくしい》と歌う“東京絶景”は、彼女がかつて使いたかった魔法そのものだ。（塚原彩弓）