米・シアトルで生まれ育った日系アメリカ人アーティスト、キシバシの2年半ぶりのニュー・アルバムが完成した。ヴァイオリニストとしてオブ・モントリオール等の作品に参加するプレイヤーの側面と、美しくシンフォニックなポップスが日本を含め多くのCMに起用される、作り手としての高いセンスを持ったキシバシ。電子工学を学んだ後に、バークリーでジャズ・ヴァイオリンを習うというエリートっぷりで、すべての楽器は無論自分で演奏、と隙がないことこの上ない人だが、音楽はとてもチャーミングだ。ルーパーを使いこなしたひとりバンド状態でのライヴも、時にヴァイオリンをギターのようにポロポロと爪弾いたりと、聴き手の思い込みや発想を壊して、キャッチーにその音を届けてくれる。作品もまた然り。緻密で、構築的でありながらも、たくさんの音、音色がヴォーカルと戯れているような自由な面白さがある。音の世界にすんなりと聴き手を潜り込ませて、音の粒のなかを歩くような体感をさせてくれたり、エフェクティヴでひしゃげた音で別次元に連れて行く。美しくエモーショナルでいて、不可思議なポップ世界だ。(吉羽さおり)