ロカビリー／ロックンロールの礎を作ったアイコンにとって、いわば「カムバック・スペシャル」――名コンサート映画として愛されてきた作品が、垂涎の未発表映像やボーナス音源を加え30周年記念CD／DVDとして新装登場と相成った。本作収録から約14ヵ月後にロイが急逝したという意味でも、スプリングスティーン、トム・ウェイツ、コステロを始めとする数多くの「友人達（崇拝者）」をバックに従えたこの決定的で豪華なパフォーマンスがつぶさに記録されたこと自体が僥倖。ラナ・デル・レイ～リンチつながりでなんとなく意識しているヤング世代にも、“イン・ドリームズ”や“おお、プリティ・ウーマン”だけではない、ロイ・オービソンの魅力に目と耳でじかに触れるいい機会になってくれそうだ。

その魅力って何？と問われれば、突き詰めれば、それだけでオペラを体験したような錯覚に陥らせる圧倒的な歌声だと思う。彼が「ロックンロールの殿堂」入りした際、紹介役を務めたスプリングスティーンは「『明日なき暴走』でロイのように歌いたかった――が、誰も彼のように歌えない」と発言した。そのコメントは、いまだ揺るぎない。（坂本麻里子）