それにしても業の深い男である。オートチューン技術を駆使するというより、もはや自分の血肉として、文字通りに独特な声を築くことに成功して名声と富と確固たるステータスを得たＴ−ペイン。これまで発表した２枚のソロ作もヒットを収めたが、でも彼がもっとも飛躍したのは“フィーチャリング”業だろう。彼が客演したクリス・ブラウンやカニエ・ウェストなどの曲は立て続けに大ヒット。とはいえ、たまに主役を食うことがあっても、あくまでも彼は一種の客寄せパンダ的な存在に過ぎなかった。

そんなＴ−ペインの新作のテーマはサーカス。そこで彼は「おれが団長だ、おまえらはおれの仕切るゲームに従え」と断言して、今度は逆にクリス・ブラウンやカニエやリル・ウェインやＴ.Ｉ.を客寄せパンダとして好きなように使っている。前作と同様に全編セルフ・プロデュースしているわけだが、その才能はもはや誰も否定できない。猥雑なフロリダ・ヒップホップに鍛えられた筋肉とメインストームに洗練されたポップ・センス、そして手段を選ばない向上心を内包するこの23歳が頂点を極める日は遠くない。（内田亮）