あなたがいるからわたしがある

アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ『クライング・ライト』
2009年01月23日発売
ALBUM
アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ クライング・ライト
ひとは決してひとりでは生きられない、とはよく言われることである。それはどういうことかといえば、わたしは、誰かの認証行為によってはじめてその存在を表すことができる、ということである。わたしは、それだけでわたしであるのではない。わたしは、常に誰かにとってのあなた、なのだ。わたしは、誰かに(それがどういう認め方であろうと、たとえば、社会的な肩書きであろうが、あるいは仲間からつけられた酷いあだ名であったっていい)何がしかであるという承認をされないまま、生きていくことは困難である。それはそう、あまりにも寂しすぎるのだ。

ジャケットに供せられ、このアルバムが捧げられた大野一雄の、百歳を超えてなお踊ることをやめない舞踏家のプロフィールを見て、感じるのはそういうことである。このひとが踊ることをやめないのは、というか、さまざまな虚飾を脱ぎ捨て、己の肉体だけをもって誰かの目の前で踊る姿を晒し続けるのは、つまり、そういうことではないかと。

賞賛をもって迎えられた『アイ・アム・ア・バード・ナウ』から4年、今作『クライング・ライト』は、そうした評価も、はたまたこの間の精力的なコラボレーションも、まるでまったくなかったかのように、どこまでもストイックなピアノと、あの声だけで綴られた作品である。あらためて言うまでもない。アントニー・ヘガティは、まだ誰からも認証されていないのだ。だからその声は、聴く者に、もっと近寄ってと、耳をそばだててとでもいうように、か細く響いている。そしてアントニーは、歌うことはきっとやめないと、歌っているのである。(宮嵜広司)
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