ジャケットに供せられ、このアルバムが捧げられた大野一雄の、百歳を超えてなお踊ることをやめない舞踏家のプロフィールを見て、感じるのはそういうことである。このひとが踊ることをやめないのは、というか、さまざまな虚飾を脱ぎ捨て、己の肉体だけをもって誰かの目の前で踊る姿を晒し続けるのは、つまり、そういうことではないかと。
賞賛をもって迎えられた『アイ・アム・ア・バード・ナウ』から4年、今作『クライング・ライト』は、そうした評価も、はたまたこの間の精力的なコラボレーションも、まるでまったくなかったかのように、どこまでもストイックなピアノと、あの声だけで綴られた作品である。あらためて言うまでもない。アントニー・ヘガティは、まだ誰からも認証されていないのだ。だからその声は、聴く者に、もっと近寄ってと、耳をそばだててとでもいうように、か細く響いている。そしてアントニーは、歌うことはきっとやめないと、歌っているのである。(宮嵜広司)