オルタナ・ロックの涅槃仏が起き上がる

J・マスキス『エラスティック・デイズ』
発売中
ALBUM
J・マスキス エラスティック・デイズ

00年代以降、一種吹っ切れたかのごとく多様な活動(ダイナソー再結成も含む)を繰り広げているジェイの4年ぶりの新作。実質的なソロ第1弾『セヴェラル〜』(11年)以来、アコギを中心とした繊細な響き、Keys/ストリングス/コーラスを含むアレンジ、フォークやジャングリー・ポップにラーガといった様々なスタイルに腕を伸ばす柔軟な姿勢を確立した感があるが、いい意味で「吹く風にまかせる」なそのアプローチ――自宅スタジオで制作する、文字通りアット・ホームで彼の「地」に近い作りゆえにメロディの美しさが際立つ――はここでも健在だ。

とはいえ、1曲目からエレキがうねうねと虹色の流線型を描く今作はアップ・テンポでノリの良い楽曲が多い作風に寄っている。間欠泉のごとく噴き出したソロがエモい溶岩流と化す場面が何度も出没する、「くぉ〜〜」っとこぶしを握りスピーカー音量をぐいっと上げたくなるカタルシス度の高い内容だし、アンセム調なコーラス②③他を筆頭にロックなラフさもたっぷりと、いい意味で意表をつく。そういえば今回はジャケットも前2作とがらっと異なる作風で、悲劇的なイメージが起用されている。ジェイの音楽的な通常モードが甘い悲しみ/メランコリックな健気さであることを思えば不思議はないビジュアルながら、筆者はこのアートワークに「ニール・ヤング『ZUMA』のジャケットの後日談?」を想像した。そう考えればアコースティックな職人性/穏やかさと、エレクトリックなロッカー/胸を焼く情感とがバランス良く合わさった作風であるのもうなずける。そのニール同様、メロディとギターの名手であるジェイは奥が深い。そんな彼のディープな世界に飛び込んでみたい方にとって、本作はアクセスしやすい最初の1枚でもある。(坂本麻里子)



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J・マスキス『エラスティック・デイズ』のディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
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J・マスキス エラスティック・デイズ - 『rockin'on』2018年12月号『rockin'on』2018年12月号
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