顔ぶれよりも大切なもの

ザ・ダムド・シングス『ハイ・クライムス』
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あまりに音沙汰がないものだから、やはり1枚限りのスーパーグループだったのだな、と思っていたが、あのザ・ダムド・シングスがさりげなく還ってきた。2010年末に世に出た前作『アイロニックラスト』から8年半を経ているが、メンバーのうちアンスラックスのスコット・イアン(G)、フォール・アウト・ボーイのジョー・トローマン(G)とアンディー・ハーレー(Ds)、エヴリ・タイム・アイ・ダイのキース・バックリー(Vo)という4人までは不動。ベーシストの交代は経ているし、あの頃アンスラックスでもスコットの同僚だったロブ・カッジアーノ(G/現ヴォルビート)の姿はさすがにもうない。ただ、彼らがこの場で吐き出そうとしているものに変わりはなく、スラッシュ・メタルでもエクストリーム・ミュージックでもオルタナティブでもなく、実にベーシックでグルーヴィでプリミティブな、むきだしのロックが本作には詰まっている。

以前、チープ・トリックの来日公演にスコットが飛び入りしたのを目撃した際に「あ、この人はメタル界のリック・ニールセンだったのかも」と気付かされたことがあったが、パワー・ポップの権化とされることの多いあのバンドが実はエッジのきいたヘヴィ・ロック・バンドでもあるというのと同様に、必殺メタル・リフ製造者としてのスコットのもうひとつの側面が見えてくる。ここでは叫ばずに歌おうとするキースの歌唱についても同じことだ。

考えてみればスラッシュ・メタルの登場はメタル細分化の始まりでもあったわけだが、本作にはメタルがメタルと呼ばれるようになる以前の根源的衝動とでもいうべきものが脈打っている。顔ぶれの豪華さではなく、むしろ大事なのはそうした事実のほうだろう。 (増田勇一)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。
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『rockin'on』2019年6月号