苦しみと悲しみの果て、希望の始まり

コーン『ザ・ナッシング』
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ALBUM
コーン ザ・ナッシング

オリジナル・ギタリストのヘッドが復帰を果たした『ザ・パラダイム・シフト』(2013年)は未だ照準を絞り切れていない印象だったものの、それに続く『ザ・セレニティー・オブ・サファリング』(2016年)は、ずっと変革→原点回帰→統合的進化を果敢に繰り返してきたKOЯNが、なんというか「総決算的な」方向性に踏み込んだ様子を感じさせる内容で、聴き応えがあった。

その前作でも、ジョナサン・デイヴィスお得意の奇妙なラップ・メタル・パフォーマンス(通称ドンブリヤッタ)を再現したりしていたが、今作はいきなり冒頭からバグパイプが鳴り響き、1曲目のラストでジョナサンが嗚咽をもらすという躊躇なきブッ込みぶり。ベカベカ・バチバチした異様な音色のベースなど彼らならではのサウンドに加えて、”ハーダー”という曲名を「H@rd3r」と綴っていることまで含め、自らが生み出してきた表現手法を決め技として堂々と使っていこうという決意が伝わってくる。プロデュースも引き続きニック・ラスクリネクツ(フー・ファイターズアリス・イン・チェインズほか)を起用しており、トータルで集大成路線を推し進めながら、きっちり精度を上げてきたという感触だ。とてつもなくヘヴィなリフで攻め立てるヴァースと、時にスウィートとさえ言えそうなキャッチーな歌メロをフィーチャーしたコーラスが組み合わさる独自性には、ますます磨きがかかっている。もちろん、過去に試みた音楽的チャレンジの数々もしっかりと随所に活かされ、デジタルなサウンド・プロダクション、オーケストレーション的なアレンジなどは、前面に押し出されすぎない形でアルバム全体の完成度アップに貢献していると思う。

ご存知の通り、ジョナサンの愛妻デヴェンは昨年8月に亡くなった。今作の歌詞は非公表で、アートワークにも掲載されないそうだが、“ファイナリー・フリー”、“キャン・ユー・ヒア・ミー”といった曲名だけ見ても、その悲劇が影を落としていることは間違いないだろう。ヘヴィでドラマティックなバラード“ディス・ロス”は胸に迫る。ジョナサンが受けた苦しみは想像を絶するが、これまでの音楽人生を通じて、様々な過去のトラウマと苦闘し、克服してきた彼は、いっそうタフな表現者となって、キャリア史上でも最高に絆を深めた状態のバンドメイトとともに、充実の最新作を作り上げたのだ。活動開始以来、波乱の歴史を乗り越えて四半世紀、現在のKOЯNがこのような段階に辿り着いたことに感じ入りつつ、『ザ・ナッシング』に対する惜しみない賞賛を送りたい。 (鈴木喜之)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』10月号に掲載中です。
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コーン ザ・ナッシング - 『rockin'on』2019年10月号『rockin'on』2019年10月号
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