「趣味が高じて」とか「好きこそものの上手なれ」といった言葉が浮かぶ。デフ・レパードのジョー・エリオット(Vo)を首謀者とし、クワイアボーイズのメンバーらを擁するこのバンドは、そもそもモット・ザ・フープルの再結成ライブの前座を務めるために始まったようなもの。そのモットを軸としつつ、そこからの派生バンドやイアン・ハンターのソロ楽曲などを、思い入れたっぷりにカバー、というよりは完コピし、これまでに2枚のアルバムを発表している。これは、そんなモット愛に満ちたバンドから約5年ぶりに届いた新録音源である。
さて、果たして今回はどんなカバーを聴かせてくれるのか? きっとまたモット愛好家の記憶の隅に取り残された曲を引っ張り出してくれているに違いない。そう思いながら聴き始めてみると、70年代ロック原体験派としてはすぐさま感情移入できる親しみのある手触りの楽曲ばかりが飛び出してくるのに、どれもタイトルが思い出せない。さすがに俺の記憶力も怪しくなってきたか……と思っていたら、なんと今回はオリジナル作で、カバーは終盤に収録されているチューブスの〝ホワイト・パンクス・オン・ドープ〞のみなのだった。ああ驚いた。
しかしそうして真相を知ってから聴き返してみても、どの曲も長年聴いてきた愛着深いもののように感じられてしまうのだから不思議だ。そのまま70年代を舞台とした映画のサントラとかに使えそうだし、モットのみならず10㏄やELOみたいな手触りの曲も。70年代にミック・ロンソンのプロデュースでデビューし損ねた不運なバンドの発掘音源がリマスターされたもの、とか嘘をつかれたら本気にしそうだ。いやあ、お見事。とりあえずお供にギネスを1パイントお願いします。 (増田勇一)
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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』11月号に掲載中です。
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