魅惑的な「突然」が詰まった

カリブー『サドンリー』
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ALBUM
カリブー サドンリー

グラミー賞ノミネート作『アワー・ラヴ』以来約5年ぶりのアルバム。先行シングル“ホーム”では、70年代の女性R&Bシンガー、グロリア・バーンズの同名曲と、大ネタの定番として知られるメルヴィン・ブリスの“Synthetic Substitution”の極太ドラム・ブレイクをサンプリング。盟友フォー・テットもアレンジに参加し、原曲“ホーム”のファンキーなレア・グルーヴ感はそのままに、若干テンポを速めたモダンなビート・ミュージックに料理。2分半という短めの尺の中で、ほぼほぼそのサウンド・デザインで進行しつつも、最後に突然シタールのようなエキゾチックな音色が入り、すぐにフェイドアウトするというストレンジな自由さを見せていた。

アルバム・タイトルを直訳すると「突然に」だが、前述の“ホーム”しかり、今作には思っても見なかった小さな「突然」がふんだんに盛り込まれている。1曲目の“シスター”では、ダン・スナイス自身の儚げなボーカルとひんやりとしたエレクトロに、女性の声や波の音のようなノイズが途中で混じるのだが、そのハプニングは幻だったかのようにすぐに元のサウンド・デザインに戻る。1曲1曲、「フォーマット」という概念を消し去るような、静かでフリーキーな展開が起こる。我々の日常にも、大きなドラマはそう起こるわけではない。さざ波のような、でも何らかの動きをもたらすような変化が押し寄せて日々は進んでいく。ラスト曲“クラウド・ソング”でスナイスはこう歌っている。《No one is granted an eternity,》《I'm broken so tired of crying, Just hold me close to you.》。永遠は存在せず、確かな道が広がっているなんてあり得ない。そんな人生の道程が滲む、実験的かつ人間的なアルバムだ。 (小松香里)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。
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カリブー サドンリー - 『rockin'on』2020年4月号『rockin'on』2020年4月号
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