『トゥルー・ミーニングス』(2018)以来2年ぶりの新作。ザ・スタイル・カウンシルの最終作『コンフェッション・オブ・ア・ポップ・グループ』(1988)以来32年ぶりに古巣ポリドール・レコーズに復帰しての、ソロ通算15枚目のアルバムである。ベン・ゴードリア、アンディ・クロフツ、スティーヴ・クラドックといったウェラー・バンドのメンバーのほか、ジョシュ・マクローリー(元ザ・ストライプス)、ミック・タルボット(元ザ・スタイル・カウンシル)、ジム・リー(元スレイド)、米国生まれの10代のシンガー、コールトレーンなどのゲストが参加。
ゲストの顔ぶれの多彩さが、このアルバムの音楽性の多彩さを物語っている。海外デラックス版は15曲入り、日本盤は16曲入りだが、今回の試聴は10曲入りの海外スタンダード版で行った。
前作はアシッド・フォーク&チェンバー・ポップなアコースティック主体で、サウンドを絞り込むことでアルバムに明確な方向付けを行っていたが、本作は「なんでもアリ」だ。クラシカルなチェンバー・ポップからオーガニックなソウル・バラード、そしてサイケデリックなミニマル・ポップと展開していく①が象徴的。ちょっと中期ビートルズ的なカラフル・ポップ⑧もそう。タルボットのオルガンが冴えるソウルフルな②はウェラーの王道と言えるもので、③も文句なく力強く、60年代的なポップ・テイストの⑦もウェラーらしい。その一方でヒップホップ的なビート感覚のR&B⑤や、エレクトロニックR&Bの⑨などは、ウェラーの持ち味とコンテンポラリーなブラック・ミュージックの実験性をうまく融合した楽曲だ。
つまりは現在のポール・ウェラーの興味と音楽的志向が余すところなく収められ、過去と現在がバランスよく収まった作品であり、とっちらかった散漫さは感じられない。⑩から①に円環を描いて連なっていくアルバムの構成も完璧だ。本作の前に『イン・アナザー・ルーム』というエクスペリメンタルなコラージュを全面展開した怪作EPをリリースしているが、おそらく本作制作過程ではみ出していったものをまとめたのだろう。
ここにないのは、ギターをかきむしり咆哮する熱きロッカーとしてのウェラーだ。その境地は円熟という言い方もできようが、断じて保守的な印象はなく、むしろ還暦を過ぎてまだ新しい試みを忘れず前に進もうとする意欲を感じる。まだ怒れる10代だったデビュー時から付き合い続けてきたアーティストが、今なおノスタルジーではない、耳をそばだてずにはいられない挑戦的な音楽を作り続けているのである。 (小野島大)
各視聴リンクはこちら。
ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。