スリップノット、ストーン・サワーのボーカリスト、コリィ・テイラーの初ソロ・アルバム。ストーン・サワーも手掛けるジェイ・ラストンがプロデュースを担当。アルバム・タイトルは“Corey Mother Fucking Taylor”の略である。
コリィにはストーン・サワーの『ハイドログラッド』の時に一度本誌で取材しているが、意外なぐらい優しく開けっぴろげな人だった。本作はそんなナマで接したコリィのキャラクターがそのまま音楽になっている、という印象だ。スリップノットよりもストーン・サワーよりも、コリィらしい、コリィにしか作れないアルバムだと感じる。
オールドスクールなハード・ロックをベースにしたロックンロール・アルバム、という意味ではストーン・サワーに通じるが、あくまでもバンドであるストーン・サワーとは違い、ソロ・アルバムらしく、より幅広くバラエティ豊かなコリィの個人的音楽嗜好がリミッターを外して炸裂している。スウィートやスレイドに通じるような70年代グラム・ポップ、軽快で解放的なメロディのパワー・ポップ、流れるような流麗なギター・ソロとコーラスを活かしたアメリカン・タイプのハード・ロック、エクスプロイテッドやG.B.H.みたいな80年代風味のハードコア・パンク、サイケデリックなポジティブ・パンク、サイコビリーが入ったロックンロール、シャッフルのリズムを活かしたロカビリーっぽい曲、ピアノとストリングスを効果的に用いた美しくドラマティックなバラードといった幅広さは、なるほど、最初なんで片っ端から好きなものをぶち込んでみたという感じ。だがアーティストが楽しみながら作ったのが非常によくわかるし、コリィのボーカルという軸がぶれないのでとっちらかった感じはしない。タイトル曲“CMFT マスト・ビー・ストップト”は、ラッパーのテック・ナインとキッド・ブッキーが参加したヒップホップ色濃いミクスチャー・ロックで、同曲のMVにはマリリン・マンソン、メタリカのラーズ・ウルリッヒ、ジューダス・プリーストのロブ・ハルフォード、プロレスラーのクリス・ジェリコらが参加しており、マキシマム ザ ホルモンのマキシマムザ亮君、BABYMETALなどがカメオ出演しているという賑々しさ。全体に明るくポップで風通しのいいアメリカン・ロックの良さが出ている。コリィの歌唱力の確かさもあり、どの曲も歌ものとして完成度が高い。
堅苦しいこと抜きに楽しめるエンターテインメント・ロックのお手本のような作品。長いキャリアはダテじゃない。お見事です。 (小野島大)
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