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    小さな愛の歌が秘めた力

    ジェフ・トゥイーディー『ラヴ・イズ・ザ・キング』
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    ALBUM
    ジェフ・トゥイーディー ラヴ・イズ・ザ・キング

    「オルタナティブ」として年を取ること。アメリカにおいてつねに良質かつ志の高いオルタナティブ・ロックを届けてきたウィルコ、そのフロントマンのジェフ・トゥイーディーはいまや、シーンの良き父のような存在になっている。メインストリームの華やかさからは少し外れた場所で、地に足をつけて自分の道を歩くこと⋮⋮それを「オルタナティブ」と呼ぶのなら、いまのような混乱した時代にこそ、そうした価値観が必要だろう。おじさんによるロック音楽を「ダッド・ロック(オヤジ・ロック)」と呼んで揶揄する風潮もアメリカにはあるようだが、しかし現在のトゥイーディが醸す父性はたしかに求められている。

    前ソロ『Warm』も渋くて良いフォーク作だったが、本作はなおさら落ち着いたフォーク/カントリー・アルバムになっている。ウィルコほど音響が実験的なわけでもないし、特段新しいわけでもないので、つい「ダッド・フォーク」……などと呼んでしまいそうだが、ここにはたしかに「オルタナティブ」として長く生きてきた音楽家の矜持が宿っている。なんでもパンデミック下で内省的になった彼が自分を慰めるために作った曲たちが収録されているそうだが、繊細に弾かれるギターの弦の音といい、聴き手に優しく届けようとする歌唱といい、小さな音量のフォーク・ソングで自身の迷いや不安を開示することを恐れていない。「アメリカ」なるものが勇ましく、強権的なものに突き進んでいくなかで、繊細さや弱さを含んだアメリカ音楽をそっと届けることこそが「オルタナティブ」なのだ、と告げているようだ。そしてトゥイーディーは、人間同士のささやかな繋がりを守ることの尊さを歌う。「きみがぼくを求めるとき、ぼくはそこにいるよ」。そのとき、繊細さは強さとなる。(木津毅)



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    ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
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    ジェフ・トゥイーディー ラヴ・イズ・ザ・キング - 『rockin'on』2020年12月号『rockin'on』2020年12月号
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