これは成長や進化というより、柔軟で底知れないポテンシャルをどんどん解放している感じなのだろう。19歳とか20歳とか、本人はそんなに違いはないと言っていたが、そうは言っても、20歳になる2021年を前にリリースされた本作は、まるでこれまでのキャリアが助走だったかのようだ。彼の素晴らしいところは、いわゆるヒップホップのクリシェや固定観念から思いっきり自由でありながら、誰よりもヒップホップのマインドを体現しているところだ。それはつまりビートとラップ「だけ」を武器に道場破りをしていく果敢さや、自分を信じる意思の強さや、現状への絶え間ない不満足のことだ。“scrap and build”のようなストロングスタイルにも、“player”のようなメロウネスにも、
TENDREをフィーチャーした“BLOOM”や
クリープハイプとコラボした“どうせ、愛だ”にも《少しでも不純物が入らないように/全てを丁寧に 歌うの丁寧に》(“宝箱”)という通り、まったく同じ温度で向き合う空音がいる。そのうえで《僕だけの正義の歌は/3分間の賛美歌》と覚悟を歌う“誰かの正義の歌”はとても強い。(小川智宏)
『ROCKIN'ON JAPAN』2月号より