最後に残るのは愛

ジェイムス・ブレイク『カヴァーズ』
発売中
EP
ジェイムス・ブレイク カヴァーズ

いい歌に新たな息吹を吹き込むと共にそのアーティストのルーツや感性を異なる角度から明かしてくれる、カバー曲を聴くのはいつだって音楽ファンにとって楽しいもの。ジェイムス・ブレイクが年末に届けてくれた本EPもその例に漏れないし、クラシック音楽を正統に学んだ彼のピアノの上手さに改めて嘆息させられると共にめきめきと伸びている歌唱力(ディープな低音からファルセットまで実に意欲的!)を味わうのにもってこいな1枚にもなっている。

きっかけは昨年春の自宅隔離中に2回にわたりおこない好評を博したインスタグラム・ライブで、自作曲とカバーを交ぜたピアノの弾き語りで披露したものが収録曲の半分以上を占める。取り上げたのはロバータ・フラックらの定番ソウル・バラードからビリー・アイリッシュフランク・オーシャン(原曲に参加しているので、ある意味セルフ・カバーとも言える)らのモダンな名曲まで幅広く、デビュー期にジョニ・ミッチェルファイストをレパートリーにし過去と現在を分け隔てなく聴いてきた彼らしい(にしてもカバーする古い曲は1971年のヒットが多いのはなぜ?)。インスタで演っていたレディオヘッドの“ノー・サプライゼズ”は惜しくも入っておらず、ジョイ・ディヴィジョンの“アトモスフィア”のみ含まれたのは興味深い。どちらも解釈によってはコロナ状況における疎外感や社会不安のコメンタリーとして響く曲であり、今カバーする意味合いは大きい。同じく繊細でノイローゼ気味な英国白人男性の書いた歌という意味でも共感しやすいはずだが、ここでのジェイムスはつい陥りがちな自らのデフォルトなアイデンティティをなるべく回避しているらしい。その代わり、本作には様々な形の愛の讃歌が熱く詰まっている。別離や思慕を綴る③④の痛みも強烈に美しいが、それ以上に圧倒的なのが献身的かつ世俗を超えた絶対的な愛の歌⑤⑥で、強く影響を受けたゴスペルやフォークの根元にあるエモーションを咀嚼し祈りに近い聖歌に昇華させている。クリスマス前に本作が発表されたのは、苦しみ悲しんだ2020年の世界に対する彼なりのギフトという意味合いもありそうだ。この他にも単発トラックやEP『ビフォー』と断続的なリリースが続いてきたし、そちらでは最新鋭のダンス・ポップを聴かせた。もともとベッドルーム・プロデューサーで「ぼっち」はあまり苦にならない人だけにクリエイティブになっていたようだし、誰もが潜ったこの「一時停止」の期間を有意義に過ごした彼の次なる一手はすごいことになりそうだ。(坂本麻里子)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』2月号に掲載中です。
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ジェイムス・ブレイク カヴァーズ - 『rockin'on』2021年2月号『rockin'on』2021年2月号
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