「愛が溢れる作品を作りたい」という思いから生まれた3rdフルアルバム。2020年は失恋ソングで固めたミニアルバム『失恋スクラップ』をリリースするなど、恋に悩み、複雑な痛みを抱えてきた女性を多く描いてきた彼女が、今作ではささやかで穏やかな日常生活と、そのなかで心に溢れ出す愛おしさやときめきを、ドラマティックに切り取っている。

家族愛を綴った“愛を着て”、究極の愛情表現とも言うべきタイトルもインパクト大の“あたしが死んでも”、プライベートな空間で睦み合う様子を描いた“バスタイム”、わけあり男女ならではのスリリングな心地好さが漂う“右耳のピアス”など、どの楽曲にも愛情がもたらす甘美で豊潤な瞬間が凝縮。ノスタルジックなカントリーソングや、ピュアなピアノバラード、幻想的なベッドルームミュージック、妖しげな大人のムードとキュートさのコントラストが小気味よいポップソングなど、多彩な音像を軽やかに乗りこなすボーカルが、いじらしさをより華やかに魅せる。注目を浴びることのないわたしたちの愛は、わたしたちだけで育むからこそ特別なのだ。（沖さやこ）

『ROCKIN'ON JAPAN』4月号より