その正体は内省的シンガーソングライター? それも凄い

タッシュ・サルタナ『テラ・ファーマ』
発売中
ALBUM
タッシュ・サルタナ テラ・ファーマ

オーストラリア出身のマルチ・インストゥルメンタリスト。大きな話題を呼んだ1stアルバム『フロー・ステイト』から2年半ぶりの2作目だ。サマーソニック2019での驚異のライブも記憶に新しいところだろう。前作に引き続き、すべての楽器、そして全曲のプロデュースも彼女ひとりでやっている。

ただし今回は地元オーストラリア出身者を中心とした音楽家たちが何曲かで助力しており、M6ではシンガーソングライターのジョシュ・キャッシュマンとデュエットを聴かせ、楽曲も共作。M11ではラッパーのジェローム・ファーラーが参加、楽曲も共作している。さらに4曲でシンガーソングライターのマット・コービーと、そのマットやトロイ・シヴァンに楽曲提供したこともあるソングライター、ダン・ヒュームが共作者として名を連ねている。1stアルバムは浮遊感のあるディープでサイケデリックでメロディアスなサウンドが印象的だったが、本作ではさらにメロウでメランコリックな歌もの志向が強くなっている。アンビエント色の濃いスロウからミディアムのR&B風の楽曲が大半で、ガツンとくるようなリズム中心の曲は見当たらない。非常に内省的かつ思索的な作品であり、たとえばライブで見せるようなエネルギッシュなパフォーマーとしての彼女はここではうかがえないのである。

「私はたったひとりなんだと感じられるような空間を作る必要があることに気付いてなかった。私はただ内面に分け入っていって、本当に平和な場所を見つけてアルバムの曲を書いた。とても幸せだった」と彼女は語っている。こうした心境はコロナ禍も影響しているだろう。しかしそれだけとも思えない。タッシュは「女ヘンドリックス」的な超絶技巧ギタリストとしての側面や、20種以上もの楽器やエフェクターを駆使してのワンマン・ライブの凄さばかりが語られがちだが、むしろ本質はナイーブで内省的なシンガーソングライターであり、本作ではそれが顕在化しただけなのかもしれない。思えば1stのころ、彼女の音楽世界にどこか孤高で人を寄せ付けない雰囲気を感じていただけに、本作での変化はごく当然のように思える。

本作で4人もの外部コラボレーターを迎えたのは、ともすれば孤高で閉じた自家中毒的なものになりがちな彼女の表現を世界と繋げるための、いわばインターフェイスとしての役割を求めたのかもしれない。そうであれば、それは見事に成功していると言える。日本盤ボーナス・トラックの「スタジオ・ジャム・ヴァージョン」がいい。(小野島大)



各視聴リンクはこちら

ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。


タッシュ・サルタナ テラ・ファーマ - 『rockin'on』2021年4月号『rockin'on』2021年4月号
公式SNSアカウントをフォローする

洋楽 人気記事

最新ブログ

フォローする