まず、アルバム・タイトルが粋。「満月の下でほろ酔い」だなんて。その、オープニングとなるタイトル・トラックでは、どこかドリーミーなストリングスがゴージャスに飾り立て、そして「イエス!」と力強く連呼される。この肯定感。ザ・フラテリスというバンドがずっと鳴らしてきたポジティブなフィーリングが、少しばかり成熟したものとして響いている。
管弦やシンセのきらびやかなアレンジがアルバム全体のムードを牽引していて、若い勢いが溢れていた『コステロ・ミュージック』(06)のイメージが強いリスナーは驚かされるのではないだろうか。ゆったりとしたテンポで聴かせる“Action Replay”の柔らかさや、“Hello Stranger”の穏やかさは長く続けてきたバンドだからこそ達成できたものだろう。また、前作に続いてプロデュースにベテランのトニー・ホッファーが入っていることもこの安定感を生んでいるのだろうと思われる。デビュー作のスマッシュ・ヒットに翻弄され一度は活動休止したものの、再始動してからのザ・フラテリスはどこか覚悟が定まったようなしなやかさを備えるようになった。
それに“Six Days In June”のご機嫌なブラス・サウンドとともに弾ける歌は、ますます確信に満ちたかのように力強く、そして生き生きとしている。この3人だからこそ実現できるコーラス・ワークがあり、それはどんなアレンジになろうとも揺らぐことがないと彼ら自身がわかっているのである。キャリアが長くなるほど、自分たちの「ポップ」に自信を持つようになるというのはグラスゴーのバンドらしい年の取り方だ。自分たちがグッド・ソングスを届けていることの混じり気のない喜びが、カラフルなサウンドを得て輝いている。(木津毅)
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