独走止めぬ無冠の王者

GRAPEVINE『新しい果実』
発売中
緻密に構築したグルーヴが暴れまわる“阿”から、凛としつつも涙腺を打つ亀井印の美メロが炸裂する“さみだれ”へと連なる並びがごく自然に収まっていることが象徴的だが、本作においてはこれまで彼らが得てきたストロングポイントが過不足なく、しかし全方位的に発揮されている。高潔なポップさを湛えたメロディと、洪水のように溢れる情報量との同居。振り返ればそれらが確立されたのは、まず歌主体のギターロックとしてひとつの完成形に至った2008年の『Sing』。そしてオルタナティブにルーツミュージックの再解釈を進める海外の猛者たちとの同時代性を獲得した2009年の『TWANGS』。総じてアベレージが高い彼らのディスコグラフィにおいてとりわけ金字塔として屹立する2大傑作だが、本作は、そのどちらもを想起させる作品となっている。そのうえ、インディR&Bを洒脱に吸収した“ねずみ浄土”やトーキングブルーズを魅せる“ぬばたま”など、新たな挑戦にも余念がない。作曲、作詞、演奏、録音、バンドの姿勢、思想。あらゆる面で一分の隙も見せない、畏敬の念すら抱かせる圧巻の一枚だ。(長瀬昇)