「遅く生きる」ことのススメ

sumika『リタルダンド』
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心地好く肌を撫でる、そよ風のような曲である。7月にリリースされた“Jasmine”に続く配信シングル。タイトルの“リタルダンド”とは速度を表現する音楽用語のひとつで、「だんだんとテンポを落とす」ことを意味する。要は「ゆっくりね」ということ。こうした音楽の専門用語がそのまま曲の表題になり、聴き手や時代へのメッセージになるところに、とてもsumikaらしい品のよさを感じる。大切なのは、何よりもまず、音楽があるということ。そのうえで、音の響きや楽器の重なりの奥から、生きること、生活、時代……そんないろいろの中で、大切にしたいものが浮かび上がる。

作詞は片岡健太、作曲は『AMUSIC』でも多彩な楽曲を手掛けた黒田隼之介。穏やかでふくよかなサウンドに乗せて、今、時代の風に乗るバンドが、《風待ちさ》と歌うことに大きな意味を感じる。言葉や情報にまみれた喧騒の最中で、不安に駆られて急ぐより、「ゆっくりしようよ」と伝えてくれることの大らかさ、安心感。「まあ、とりあえず今日は何もしなくていっか」と力を抜いた体を、柔らかな歌声がふんわり抱きしめる。(天野史彬)