3月2日(日)にとうとうアカデミー賞が発表される。日本では3月3日午前8時からNHKで生中継され、翌日にWOWOWで字幕付きで放送されるよう。
https://www.nhk.jp/p/ts/X84X2VKWXL/
https://www.wowow.co.jp/extra/academy/
今年は、去年の『オッペンハイマー』のように、評価も高く、興行成績も記録したずば抜けた作品がなかったため、『ANORA アノーラ』と、『教皇選挙』、『ブルータリスト』、『エミリア・ペレス』のどの作品も取る可能性がある大混戦であることがまず特徴だ。しかし、直前になって、オスカーにも影響を与える、プロデューサー組合、監督組合、脚本家組合賞で、『ANORA アノーラ』が取ったため、このまま『ANORA アノーラ』に流れる可能性が大と見られている。
また、注目なのは、我らがティモシー・シャラメだ。当初は、『ブルータリスト』で主演のエイドリアン・ブロディが、最有力候補だったが、最後になってオスカー直前に発表された俳優組合賞でいきなりティモシーが受賞。俳優組合は、アカデミー賞投票者が最も多いので、もしかして最後に逆転する可能性も出てきた。
パフォーマンスにおいては、今年の受賞式では、オリジナル楽曲賞でノミネートされた曲がパフォーマンスがされることはないそう。代わりに、すでにブロードウェイでオリジナルの曲がパフォーマンスされているためノミネートはされていない『ウィキッド ふたりの魔女』のアリアナ・グランデとシンシア・エリヴォが、オスカーの幕間けでメロディをパフォーマンスする予定と言われている。『ウィキッド ふたりの魔女』は大ヒットしたため、番組の最初に彼女たちに登場してもらい視聴者を獲得しようという作戦だ。
以下、今年パフォーマンスをするアーティスト、プレゼンター、オスカー予想、見所などを簡単にご紹介。
1)パフォーマンスするアーティスト
『ウィキッド ふたりの魔女』の2人がパフォーマンスする他、ドージャ・キャット、ブラックピンクのリサ、レイがパフォーマンスする。今年は、楽曲賞のパフォーマンスがない代わりに、映画を祝福するパフォーマンスになる。
2)プレンゼンター
プレンゼンターとして発表されているのは、ハル・ベリー、『エミリア・ペレス』に出演しているセレーナ・ゴメスなど。気になるのは、エイドリアン・ブロディが初めて主演男優賞を受賞した際、発表したのがハル・ベリーだったこと。エイドリアン・ブロディがいきなりキスしたのも驚きで覚えている人もいるのでは。今年もそれが再現されるということだろうか?!?!
3)オスカー見所
a. 作品賞は接戦:『ANORA アノーラ』、『教皇選挙』、『ブルータリスト』。
まず、上にも書いたように作品賞は接戦。しかし、現時点では、カンヌ映画祭で大賞を受賞して以来、世界各地の映画祭で高評価、批評家から愛された『ANORA アノーラ』がこのまま逃げ切る可能性が大となってきた。13部門で最多ノミネートされた『エミリア・ペレス』は、タイトルである主役を演じた女優カルラ・ソフィア・ガスコンが、イスラム教徒差別や、ジョージ・フロイドを「ドラッグ中毒の詐欺師」などとX上でコメントしていたことが判明。本人はすぐに謝罪し、オスカーのキャンペーンにも参加しなかったが、出演者のセレーナ・ゴメスも言っていたけど、この作品の「魔法が少し消えてしまった」ように思う。作品が画期的で素晴らしいのは変わらないのだが。しかし、現時点では、『ANORA アノーラ』が先頭だが、その他評価の高かった『教皇選挙』、『ブルータリスト』が取ってもまだおかしくない状況だ。
b. 主演男優賞は、エイドリアンvsティモシー。ティモシーが取ればエイドリアンの記録を抜いて史上最年少
当初から主演男優賞は、『ブルータリスト』のエイドリアン・ブロディが取ると言われていたが、ここにきて俳優組合賞をティモシーが取ったため、大逆転の可能性も出てきた。面白いのは、エイドリアン・ブロディが『戦場のピアニスト』で初受賞した際、史上最年少だったこと。今回、ティモシーが受賞すると、12月27日に29歳になったばかりで、史上最年少記録を更新する。エイドリアンも、29歳で受賞したが、誕生日が4月14日なので、ティモシーより何ヶ月か年上ということになる。『戦場のピアニスト』では、ホロコーストを生き延びたユダヤ人を演じたエイドリアンだったが、今回『ブルータリスト』でも、再びホロコーストを生き延びたハンガリー系ユダヤ人建築家を演じている。ティモシーは、俳優組合で受賞した際に、「本来は謙虚なコメントをするべきだと思うけど、僕は偉大なるディランを演じるために、最高の演技を目指して5年間本当に頑張った」と言ったのが普通じゃないし、彼らしくてカッコ良かった。
ちなみにノミネーションの段階では、ティモシーは、ジェームス・ディーン以来の若さだ。
c. 主演女優賞は、ベテランのデミ・ムーアが初受賞となるか?
今年は、助演男優と女優は、ほぼ確定と言われているけど、主演男優と、女優はまだ分からない。まずキャリアが40年以上のデミ・ムーアが一度もノミネートされていなかったのが不思議だが、今回初ノミネートされたデミ・ムーアが先頭を走っているのは間違いない。これまで他の賞で受賞した際のスピーチもそれぞれ感動的だった。「自分はポップコーン女優(娯楽作にだけ出演)」と若い時に言われて、人に評価されることはないと、思い込んでいたことなど。彼女が主演した『サブスタンス』は、そういう社会からの評価、男性視線などに大反発する作品でもある。しかし、内容がアカデミー賞がほとんど評価してこなかったホラー映画である。なので、もしかしたら『ANORA アノーラ』のマイキー・マディソン、ブラジル映画ながら評価が超高い『アイム・スティル・ヒア』のフェルナンダ・トーレスが受賞の可能性もまだある。3人とも取れば初ノミネートで初受賞となる。
d.助演男優、女優はほぼ確定。
助演男優と女優は、それぞれ『リアル・ペイン〜心の旅〜』のキーラン・カルキンと、『エミリア・ペレス』のゾーイ・サルダナでほぼ確定。もしこの2人が取らなかったら、驚きの結果となる。
e. 日本人監督作もノミネート
今年は、3人の日本人監督がノミネートされている。
伊藤詩織監督作で、自らが受けた性的暴行事件を記録した悲痛な作品『Black Box Diaries』。世界中の映画祭で上映、高評価を得て、長編ドキュメンタリー部門でノミネートされた。日本人監督がドキュメンタリー部門でノミネートされたのは、これが史上初の快挙となる。アメリカではすでにパラマウントプラスで配信も開始している。
ドキュメンタリー部門は毎年接戦となるが、今年は、『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』か、『Porcelain War』など現在起きている戦争を描いた作品が取る可能性が高いと言われている。
また、短編ドキュメンタリー部門で、山崎エマ監督『小学校〜それは小さな社会〜』の短編版『Instruments of a Beating Heart』がノミネート。
短編アニメーショーン部門では、西尾大介監督『あめだま』がノミネートされている。NYタイムズ紙が、『あめだま』が受賞すると予想していた。
https://www.nytimes.com/2025/02/27/movies/oscar-predictions-odds.html
d. カルラ・ソフィア・ガスコンはトランスジェンダー女優として初ノミネート
今回『エミリア・ペレス』に主演したカルラ・ソフィア・ガスコンは、トランスジェンダー女優として初ノミネートされた。本来祝福されるべきだが、差別発言で、オスカーのキャンペーンを欠席の事態となったのは本当に残念だ。ただ、最新の情報によると、オスカーにだけは出席すると言われている。監督も出演者も、あってはならないことと言っていたので、出席したらかなり微妙な空気感となってしまうのではとも思う。
4)米メディアのオスカー予想。
全体としては、『ANORA アノーラ』、『教皇選挙』、『ブルータリスト』が分け合うような結果となるのかもしれない。評価も高くて、個人的にも好きだった作品がオスカーを取るのは嬉しいが、この殺伐とした世界で『ウィキッド』のようにポジティブなエネルギーを発してくれる世界的な大ヒット作がもう少し主要部門で評価されても良いではとも思う。
作品賞
『ANORA アノーラ』:Variety、LAタイムズ、エンターテイメントウィークリー、ハリウッドレポーター、NYタイムズ、インディワイヤー
監督賞
『ANORA アノーラ』ショーン・ベイカー: Variety、LAタイムズ、エンターテイメントウィークリー、ハリウッドレポーター、NYタイムズ、インディワイヤー
主演男優
『ブルータリスト』エイドリアン・ブロディ:Variety、LAタイムズ、ハリウッドレポーター、NYタイムズ、インディワイヤー
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』ティモシー・シャラメ:エンターテインメント・ウィークリー
主演女優
『サブスタンス』デミ・ムーア:Vareity、ハリウッドレポーター、LAタイムズ 、インディワイヤー
『ANORA アノーラ』マイキー・マディソン:エンターテインメント・ウィークリー
『アイム・スティル・ヒア』フェルナンダ ・トーレス:NYタイムズ
助演男優
『リアル・ペイン〜心の旅〜』キーラン・カルキン:Variety、LAタイムズ、エンターテインメント・ウィークリー、ハリウッドレポーター、NYタイムズ
助演女優
『エミリア・ペレス』ゾーイ・サルダナ:LAタイムズ、エンターテインメントウィークリー、ハリウッドレポーター、NYタイムズ、インディワイヤー
『教皇選挙』イザベラ・ロッセリーニ:Vareity
脚本賞
『ANORA アノーラ』ショーン・ベイカー:LAタイムズ、エンターテインメント・ウィークリー、ハリウッドレポーター、NYタイムズ、インディワイヤー
『リアル・ペイン〜心の旅〜』ジェシー・アイゼンバーグ:Variety
脚色賞
『教皇選挙』ピーター・ストローハン:Variety、LAタイムズ、エンターテインメント・ウィークリー、ハリウッドレポーター、NYタイムズ、インディワイヤー
全部門ノミネートがここで見れる。プリントアウトなども可。
5)番外編:ティモシー が何を着て登場するか?
ティモシー・シャラメは今作のレッドカーペットで、ボブ・ディランのオマージュをするファッションで登場していることが多い。オスカーでもディランのオマージュとなるのか? または独自のファッションなのか?彼は、レッドカーペットでも常にひとつ先を行くファッションで登場しているので、どちらにしても期待したい。
6)作品賞の日本公開
『ANORA アノーラ』2月28日公開
『ブルータリスト』2月21日公開
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』2月28日公開
『教皇選挙』3月20日公開
『デューン 砂の惑星 PART2』公開済み
『エミリア・ペレス』3月28日公開
『アイム・スティル・ヒア』8月公開予定
『ニッケル・ボーイズ』プライムビデオで2月27日配信開始
『サブスタンス』5月16日公開
『ウィキッド ふたりの魔女』3月7日公開
ほとんどの映画が公開中か、間もなく公開だ。ぜひ劇場で観て欲しい。
また、現在発売中のカットで、『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』のティモシー・シャラメ、ジェームズ・マンゴールド監督、『リアル・ペイン~心の旅~』のキーラン・カルキン、『教皇選挙』エドワード・ベルガー監督、『ANORA アノーラ』ショーン・ベイカー、マイキー・マディソンのインタビューを掲載しています。個人的にも素晴らしいと思う俳優、作品なので、受賞するしないに関わらず劇場に行く前、後にぜひ読んで下さい。
https://rockinon.com/blog/cut/211563