rockinon.comでは、3月30日発売の『ROCKIN'ON JAPAN』2026年5月号の別冊付録インタビューの中から内容を一部抜粋してお届けする。Chevon初の別冊特集。彼らがメジャーデビューを発表するずっと前から、そのコンセプトは「解体新書」にしようと決めていた。あっという間に大きな特集を組むに相応しいバンドになるだろうと確信していたからこそ、いち早くこの構想を温めていた。
狂気と美しさが同居する強固な世界観。ロックやボーカロイドの文脈を呑み込み、「Chevon」としか呼べないジャンルへと昇華した音楽性。そして、あらゆる観客を一瞬で釘付けにする圧倒的なパフォーマンス。Chevonが怒涛の勢いでシーンを駆け上がってきた理由は、いくつでも挙げられる。
だが、そのどれもが核心を突いているようで、どこか足りない。Chevonというバンドは、一面的な言葉では決して語り尽くせない。3人の個性が複雑に絡み合い、何かのパーツがひとつでも欠ければ崩壊してしまう——そんな奇跡のバランスで成り立つ総合芸術のようだ。だからこそ、メジャーデビューアルバム『三者山羊』を掲げてさらに広い世界へ翔び込むこのタイミングで、バンドの内側を包み隠さず記した「解体新書」が必要だった。
2時間に及ぶインタビューでは、バンドの根底に流れる「二元論」をメスにして深部へと切り込んだ。何かの波に乗るでもなく、ただ己の実力で存在感を高めてきた裏側で、3人は何を考えてきたのか。バンドの重要な転換点に放つアルバム『三者山羊』が示した成熟と不変。そして、Chevonの未来。
この「解体新書」を読めば、誰もがChevonの行く末を見届けずにはいられなくなるだろう。
インタビュー=有本早季 撮影=鳥居洋介
──メジャーデビューアルバム『三者山羊』の中では、特に“B.O.A.T.”がカギになる曲だと思っています。メッセージが直球で、サウンドもスタジアムロック的なスケール感があって、堂々とした佇まいの素晴らしい曲です。この曲の成り立ちとしては、光やスケール感の大きさを意図的に描こうとしていたのか、バンドのモードとして自然とこういう曲になったのかというと?
谷絹茉優(Vo) 曲の基礎部分はちょっと前からあって、リード曲にしようとかは思わずに、合宿の中で仕上げた曲でした。でも、この世界で生きていくことだったり、メジャーデビューをすること、横浜アリーナも見えている中でどういう曲があればいいのかっていろいろ考えた結果、自然とこういう曲が生まれた感じですね。いろんな要因が集まって、今の3人であればこういう曲もできるだろうっていう曲。自分たちがここからメジャーデビューをして、メジャーファーストアルバムを出して、横浜アリーナ、武道館2デイズっていう道が一直線に見えていて、来年、再来年もいろんなことが決まっている。そういったところで、必然的にできた曲ではあると思います。
──結果的にこの曲をリード曲に選んだのは、「ここから天下取りに行くぞ」という外向きの宣誓なのか、メジャーデビューするうえで自分たちを鼓舞していくという意味なのか。
谷絹 どこまで行けるか、どう届くか、いつ届くか何もわからない世界に足を踏み込むことへの不安と、でも高揚感もあるよね、みたいな感覚ですかね。さっきも言いましたけど、上下前後左右わからないところにポンと放り込まれて、何が正解なのかもわからないけど、意識したのは何かに対して伝えるということ。
タイトルの“B.O.A.T.”は、「史上最も明るい」という意味で。ガンマ線バーストという宇宙で起きる爆発の中でも、観測史上いちばん遠くから届いた最もエネルギーの大きいもの──具体的には19億光年離れたところから届いたものを指すんです。19億年前に爆発した光が今見えているって、すごく不思議なことだと私は思うんですよ。なんだか途方もない、思考も及ばない神秘的なものを感じる。同時に、そこに想いを馳せたとき、すごく不安でちっぽけな気持ちにもなる。宇宙ってすごく身近なものでもあるし、上を見れば常にあるものでもあるけど、現代の科学でも説明できないところが多いじゃないですか。触れ難い神秘的なものだけど、私たちはその中で生活しているし、包容力や温かさがある一方でものすごく冷たくって、孤独で、わからなくて怖くて、未知で不安な部分もすべて内包されている。真っ暗で狭いイメージもあれば、すごく広い感じもする。この業界でメジャーデビューをするって、より深くそういう世界に翔び込む行為だと思うんですよ。
──確かに。
谷絹 さらに『BOAT』(ガンマ線バースト)側から考えたら、19億年後に届けようという意思があったにしろ、なかったにしろ、19億光年先の地球のここに届けると想定したときの一歩目って、すごすぎてもうわけわかんなくなるというか。今から一歩目を踏み出すぞって思ったときに、自分たちが完全に消滅した何百年後、何千年後にうちらの音楽がどう聴かれているのか、そもそも音楽というものの形がどうなってるのか……もしくは地球じゃない違うところに届いてるかもしれないですけど。そういうものを遺す感覚になってみようと思ったときに、一歩目って途方もなければ、何が正解かもわからなくて。たとえば、バン!と出したときは批判を受けたとしても、何十年後にすごく評価を受けるとか、いろんな形で遺っていくわけで。でも、まったくわからないところに一歩目を踏み出す瞬間って、別に学校とか家庭レベルでも、個人的なものでも、それこそ宇宙規模でも、生きていれば絶対にあると思うんですよ。そういう決断の覚悟を持つときはあると思うので、このタイミングに作るのは大事だろうと思って向き合いました。
最後ひとりの心臓の音になるのも、ワーって宇宙に広がっていって、そこからぐーっとひとりの人、ひとつの生命に集約されていくようなイメージで。そういうスケール感で聴いてもらえたらなっていう気持ちもあり、こういう曲になりました。
──言っていただいた通り、想像できない不安みたいなものは感じるんですけど、自信のなさみたいなマイナスな不安を感じない曲だなって。
谷絹 そうなんですよね。ずっと希望を歌っているわけじゃないんですけど、前に前に進む力のある曲だなと思います。覚悟を示すことができた曲ですね。
──そこが私も惹かれた部分ですし、新しくて力強い曲だなと思っていて。だからこそ削ぎ落とした部分や、逆に、ここは絶対残そう、強調しようと思った部分はありますか?
谷絹 (2025年以降)自分たちの活動が第二章に入って、メジャーデビューというタイミングなので、もっと余裕を出せたらいいなとは思いました。もう虚勢を張る必要はないってさっきも話しましたけど、もっと内圧を高めていく中で、これまでのように押せ押せの音楽だけじゃなく、しっかり一歩引いた美学みたいなもの? Chevonの中にそういう要素が足される時期でもあるのかなと思ったんです。インディーズのときからストリングスとかは使ってましたし、どうすれば次のステージに行ったと感じてもらえるか考えたときに、いい意味で力を抜く部分も必要かなって。そのうえでより強くというか──自分の中でものすごくわかりやすいたとえがあるんですけど、『ドラゴンボール』で悟空が超サイヤ人になるじゃないですか。最初の頃は、界王拳っていうすごい技を何倍にもしてようやくたどり着ける境地だったんですけど、後半になると、私生活を送りながらもずっと超サイヤ人状態でいられるようになるんです。ウワー!って力を込めて超サイヤ人になるんじゃなくて、普通の状態でなっているんですよ。強いままで。そういう余裕。
──なるほど。
谷絹 うちらもそのターンに入った気がしていて。曲作りも、決して手を抜いているのではなく、そういう力の抜き方ができるようになったというか。私は剣道をやっていたんですけど、どんな武道でも、やっぱり極めていくにつれて動きが小さくなって無駄な動きが削がれると同時に、まったく隙がない状態になっていくんですね。ずっと向き合ったまま、お互いの間合いに入れず試合が終わってもめっちゃ拍手が起きるとか、そういう世界になってくるので。それが音楽にもあるんだったら、そうなっていきたいと思った。そういう意味で力を抜きながら音楽を作ることは意識しました。
──特別な曲を作ろうと思って作るのではなく、今の自分が作ったらそういう強いものになるんだっていうフェーズに入ったってことですか?
谷絹 まあ、そうなのかな? 肩肘張って、グエエエエエ!って作るんじゃない。激しい曲にしても、なんにせよ、ちゃんと力を入れる/抜くところをしっかり意識して。パワー押せ押せで必死こくんではなく、力の抜けた、心技体揃った曲を作っていければなと思っている感じですね。
──ここでフェーズが変わったなっていうことが、一回聴いただけで伝わる曲だと思います。
谷絹 そう思っていただけたらありがたいですね。今回は“(さよなら、)アイリーン”もそうですし、完全に新曲の“B.O.A.T.”と”春の亡霊“、”デイジー“に関しては、これまで支えてくれていた方々を離さず、それでいて新しい、次のフェーズに行ったと思ってもらえる曲ができたんじゃないかなとは思いますね。