●rockin’on.comでは今回が初めてのインタビューということもあり、まずは自己紹介をお願いできますでしょうか?
「初めまして! 台湾出身のAndrといいます。自分の好きなインディポップ、インディロック、オルタナティブR&Bを掛け合わせた音楽を作ってます……というわけで、日本の皆さんにも楽しんでもらえたら嬉しいです!」
●最初にあなた自身の音楽的なバックボーンについてお伺いしたいと思います。音楽活動のスタート地点として、学生時代の部活動でのバンド結成を挙げられていましたが、当初はどのようなスタイルの楽曲をプレイしていたのでしょうか?
「高校生の頃はロックのカバーを中心にやってて、フランツ・フェルディナンドの“Take Me Out”のカバーとかしてて」
●おー!
「そう、あとはマイ・ケミカル・ロマンスとか……あとはそれよりもだいぶ前になるけどパール・ジャムとか、そんな感じ」
●その当時の何か特別なエピソードや思い出などは?
「先輩からマイ・ケミカル・ロマンスの『ザ・ブラック・パレード』のCDを贈ってもらって。最初から最後まで通しで聴いてみたら脳味噌が吹き飛ぶぐらいの衝撃を受けて! それが生まれて初めてコンセプトアルバムってものと出会った瞬間で……アルバムってものに対するこれまで知らなかった新たな見方が開けた。そこからフランク・オーシャンの『Blonde』みたいなコンセプトアルバムに一気に開眼していったんだ。アルバムの全体を通して世界観を伝えていくっていう発想に魅了されたんだよね」
●今の話にもありましたけど、以前から大きな影響元として、{alink id="5468"}オッド・フューチャー{/alink}のメンバーの作品を挙げていますね。僕自身、あなたの楽曲から、彼らにも通じるノスタルジーな色彩と、ありのままの自己表現としてのDIY感を強く感じます。あなた自身は、彼らの音楽にどのような親近感や影響を感じていますか?
「言葉にするのは難しいんだけど……オッド・フューチャーのメンバーは、ひたすら自分のために音楽を作ってる気がして。しかも、それは自分が常に心がけてるところでもある……結局、自分自身を通してしか本当に人の心に響く曲は作れない気がするから。要するに、どこまでも自分本位の音楽が好き……ただひたすら自分について語るみたいなところは、まさに今言った人達から受け継いだ姿勢だろうね」
●あなたの曲作りに関しても聞かせて下さい。最初にお話しされていたオルタナティブR&Bやドリームポップの構造を受け継ぎつつも、“Pandemic〜”を始め、積極的に楽曲を脱構築していく姿勢も興味深いです。作曲面では、最初に「こういう曲を作ろう」と構造を決めてから制作しますか? それとも、音や声を重ねながら偶然生まれたものを発展させていくことが多いですか?
「自分の曲作りに関してはとりあえず曲の始まりがすごく大事で、やたらとイントロ作りに熱心になりすぎて、『というか、ここからどうするか全然考えてないよね?』ってなることがよくある(笑)。だから、曲の展開に関しては行き当たりばったりで、そのときの直観に従ってる……結果、ものすごく短い曲になることもある。よくあるヴァース/コーラス/ブリッジみたいな発想はなくて、自分が終わりって思ったらそこが終わり、無理に長引かせない。それが自分スタイルってことになるんだろうね」
●あなたの音楽ではギターが重要な役割を担っていると思います。あなたにとってギターは、メロディを奏でる楽器、作曲のための道具、あるいは楽曲の一部としてのフィルターなど、どのような存在に近いでしょうか?
「うわー……っていうか今の、良すぎる質問(笑)! 曲によって全然違うんだけど、今の自分の感覚ではライブではめちゃくちゃ重要な存在で。ライブでギターが鳴った瞬間、それだけでテンション上がる! それは他の人のライブでもそうで、ギターの音を聴くだけで血が騒ぐし。曲作りに関して言えば、たいていの場合、ビートなんかから書き始めることが多いんだけど……それでいざギターを抱えてライブで演奏する段階になって、『ていうか、これライブでどうするつもり?』って自分に突っ込みたくなることもしょっちゅう(笑)」
●歌声そのものも一つの楽器のように扱われている印象もあります。声を録音したり加工したりする際に、特に意識していることはありますか?
「というか、完璧じゃない音が好きだから……ヘタな歌ほどむしろ魅力的に感じちゃう(笑)。『このボーカル、完全にイっちゃってるんじゃないか?』みたいなのとかに出会うとめっちゃワクワクしちゃう。自分の声の扱い方もそうかもしれない……本来ならダメなテイクをあえて使ったり、逆にわざわざ編集で変な加工にして使ったりすることもあるし、そっちのほうに魅力を感じちゃう」
●あなたの作風として、英語と中国語の双方のリリックが登場する点もユニークな部分だと思います。このスタイルでのソングライティングを始めたきっかけを教えてください。
「子供の頃、初めて書いた曲は英語だったんだけど、なんで英語かっていったら両親に内容を知られたくなかったから(笑)。あとは英語で書くようになったのは自分が影響を受けてる音楽の大半が洋楽だったからで、英語で曲を書くほうが自分にとっては自然に感じられたんだよね。ただ、台湾で生まれ育った人間として自分なりのスタイルを見つけたいってずっと思ってたし、自分自身と繋がりたいし、身近にいる人達にも共感できるものにしたくて、そこから徐々に英語と中国語が混じり合っていい感じに落ち着いたというか」
●今年7月にリリースされた最新EP『SKIN』についてお伺いします。僕個人の感想にはなりますが、ファーストアルバムのR&Bを軸とした力強いスタイルから、どこか肩の力が抜けた、インディポップ/ドリームポップの方向性へ一気に舵を切ったように感じました。あなた自身は、『SKIN』の音楽的なスタイルについてどのように捉えていますか?
「とりあえず『SKIN』に関しては、ファーストアルバムと比べて色んな意味でむき出しって感じなんだよね……歌詞にしろアレンジにしろサウンドにしろ。もっと本能的で、動物的な感じ……っていうのを、今こうして話してるうちに自分でも気づいたかも……そこがこの作品の良さでもある」
●まさにそんな印象を持ちました。これまでの作品よりも「余白」や「脆さ」のようなものが感じられるのも印象的でした。それこそ、完璧にしすぎないような。
「うわー、なんて嬉しすぎるコメント!」
●“FACES”、“Cry in your TV”では、シンセの導入によって淡いフィルターがかかったようなローファイな風景が浮かびます。僕は、最新のアーティスト写真に見られるアナログな90年代オルタナ調の色合いにも近いものを感じました。あなた自身は、現在のAndrの世界観をどのようなモードとして捉えていますか?
「自分の音楽を聴いてくれた人がそのフィーリングというか、それこそ今言ってくれた90年代のテイストを感じてくれるのが嬉しい。ただ、自分は何も90年代ロックをそのまんま再現したいわけじゃないし、それじゃ全然意味ないわけで、新たな感覚だったりAndrらしさみたいな自分の世界観をアップデートし続けている段階かな。自分が受けたインスピレーションを自分のものに変換して、自分の音楽として形にしていこうって」
●『SKIN』を制作したことで、デビュー以降の自分自身の変化について改めて気づいたことはありますか?
「改めて自分について気づいたこと……自分が好きなものに対する信頼感がより強固なものになったっていうのはあるだろうね。デビューアルバムのときと比べて別に万人にウケなくてもいいやって気持ちだったかな。でも、“安 Nest”とか“Cry in your TV ”とか、自分の深いところに響いてる曲が他の人にも刺さってることがすごく嬉しくて……。『あ、自分はこのままでいいんだ、この方向で続けていいんだ』って確信が持てた」
●以前、「入口」として自身の一曲を紹介するならどの曲を選びますか?という問いに対して、「答えは毎日少しずつ変わっていく」と答えられていたのが、アーティストとしてとても素直で素晴らしい回答だと感じました。改めての質問になりますが、今日のあなたにとっての「入口」はどの曲になりますか?
「今日の推しの一曲……そうだなあ……今日の気分だったら“skin”かな。最新のEPの中の入ってる“skin”が今日の気分かも」
●理由は?
「これまで作った曲の中で一番むき出しの自分が出てると思う曲だと思うから……。正直、自分以外の誰にも共感できない曲だろうなって最初思ってたの。ただ、どこまでも生々しい素の自分っていうか、余計な飾りは一切なしで、ボーカルすらそのまんまだからね。あの後半パートをロンドンで録ってるんだけど、ちょうどロンドン滞在中に急遽ボーカルを仕上げなくちゃいけなくなって。Airbnbの部屋のカーペットに座って、夜にはフライトが迫ってる中で、安物のマイクに向かって40分、2テイク歌って、確認してそれでおしまい(笑)、『もうこれでいいや』みたいな。それが強烈な一曲になるなんて最高すぎる!」
●今回、来日のタイミングでのインタビューということもあり、日本との関係性についてもお伺いできればと思います。
「実は日本に来るのは今回で10回目くらいなんだよね。日本のアーティストとのコラボレーションもあったし、それよりも前の、それこそ音楽を始める前から家族旅行で日本に来てたのもあったし。自分にとって特別な場所だし、毎回来るたびに感慨深い気持ちになる……特に日本でのライブだよね! 毎回いい意味で裏切られるっていうか、東京とか日本のお客さんって礼儀正しくてちょっと壁があるのかなって思ってたら全然そんなことなくて。みんなほんとに音楽が好きなんだっていうのが、ステージに立っててもヒシヒシと伝わってくる」
●最後に、今後の活動や野望について、可能な範囲でお聞かせください。今後、Andrとしてどのような音楽や表現に挑戦してみたいですか?
「正直、今はただ目の前に起きてることしか見えなくて。しかも、自分の下に訪れてくれる一つ一つの出来事にすごく感謝してるし、この流れがずっと続いていったらいいなっていう気持ち。と同時に、次に何が起きるのか楽しみ。それにもっともっと曲を書きたい。今アジアツアーの真っ只中で、自分が何をしたいのかについて絶賛学んでる最中なのもあるし、ここからまた自分がどういう曲を書いていくのか楽しみで仕方ない」
Andr(アンダー)
台湾発の新進気鋭SSW。インディーポップ、オルタナティブR&B、インディーロックを横断し、ギターとフィールドレコーディングを軸にした独自のサウンドを追求している。中国語と英語を織り交ぜた歌詞と、ソウルフルで幽玄な歌声も魅力。デビュー作『shhh, it’s under my bed』は台湾やシンガポールの主要音楽賞でノミネートされ、SUMMER SONIC 2026への出演を果たすなど、ここ日本でも注目度を高めている。
トラックリスト
1. Cry in your TV
2. preTty girl bOY
3. skin
4. 安 Nest
5. FACES
6.night night (feat. Whys Young)