──ニューアルバム『LOVE HATE』、素晴らしいです。ポップミュージックとしての精度と強度を上げると同時に、アーティスト・須田景凪の精神性がさらに色濃く反映された作品だなと。ありがとうございます。自分でも濃いものになったなと思っています。──フルアルバムは『Ghost Pop』以来、約3年半ぶり。前作以降の期間、須田さんにとってはどんな時間でしたか?「本当にいろんなことがあったな」ということに尽きるんですが、音楽的な原点に戻るというより、ひとりの人間としての原点に立ち戻ったという感覚があります。「自分はもともと、どういう人間だったんだろう?」ということを考える時間が多かったですね、今思い返すと。これは『LOVE HATE』というタイトルにも繋がるのですが、深く愛している対象と、強く憎んでいる対象が同じということがすごく多かったんですよ。「ひとりは寂しいけれども、ひとりの時間がすごく好き」みたいな矛盾もたくさん抱えていたし、今も抱え続けている自覚もあって、それがすごく嫌だったんです。どうすればもっとストレートな感情になれるんだろう?ということもずっと考えてきた人生だったんですが、この数年間はどちらかというと「これはもう一生変わらないんだろうな」という感覚が強くて。矛盾みたいなものを背負って生きていくのが自分という人間だし、それをどうやって認めればいいだろう?という考え方になってきましたね。──自分を受容し始めた、と。受容せざるを得なかったのかもしれないです。誰しもそうだと思うんですけど、自分たらしめる性(さが)みたいなものからはきっと逃げられないんだろうし、それを少しずつ腹に落とす時間だったと感じています。音楽的な原点に戻るというより、ひとりの人間としての原点に立ち戻ったという感覚があります
──《一生、続いていく焦燥感/私は狂ってしまった!》という歌詞もありますが、須田さん自身の生の感情が刻まれた楽曲ですよね。一方でこのアルバムには、アニメ、ドラマなどのタイアップ曲も収録されていて。そのバランスについてはどう考えているんですか?「タイアップ曲の依頼がなければ、こういう曲は書かなかっただろうな」ということが多いんですよ。前作の『Ghost Pop』に入ってる“メロウ”(TVアニメ『スキップとローファー』オープニングテーマ)もそうで、ああいう明るくてポップな曲は自分に向いてないと思ってたんです。「得意な人がやればいい」くらいに思ってたんですけど(笑)、いざ作ってみたら、自分としてもすごく好きな曲になったし、音楽的な学びもあったんですよね。今回のアルバムで言えば“ラストルック”(TVアニメ『暗殺教室』再放送 第2弾オープニングテーマ)もそう。再放送するにあたってオープニングテーマだけが変わるという特殊なご依頼だったんですが、僕自身も『暗殺教室』のファンだったので、主題歌が変わることに対する複雑な気持ちもありつつ、好きな作品だからこそ「絶対にやりたい」という思いもあって。もともと『暗殺教室』のファンだった方、再放送で初めて知った方にとって、自分自身の気持ちがリンクする楽曲とはなんだろう?ということを考えたし、いい機会をいただいたなと思っています。──“ユーエンミー”(ドラマ『クラスメイトの女子、全員好きでした』主題歌)のようなポップチューンもあるし、タイアップによって音楽の幅が広がったところもあるのでは?そうなんですけど、『LOVE HATE』に入っているタイアップ曲は正直、作品に寄せて曲を書いた感じはあまりなくて。求められているテーマ性と自分がこれまで考えてきたことの中間地点で自然に作れた感覚が強いんです。制作の中で、何かを制限された記憶はないですね。時代を正面から見つつ、自分に何ができるか考えるしかないということに尽きるんですけどね
──トレンドの移り変わりも早いし、確かに「これが今のポップスです」と定義するのは難しいのかも。トレンドを取り入れるのも好きなんですけど、1週間前に人気だった曲がもう聴かれていなかったり、本当にすごいスピード感ですからね。アルバムの4曲目の“ミーム”はまさにそういうことをテーマにした楽曲なんです。毎日のように新しい曲に出会える楽しさもあるけど、音楽を作る人間としては少しでも長く愛してもらいたいというのが本音で。かといって自分の音楽を押しつけたいわけでもないし、複雑なんですよ。時代を正面から見つつ、自分に何ができるか考えるしかないということに尽きるんですけどね。
──多彩な楽曲がある中で、須田さんが思うアルバムの軸になっている曲はありますか?
先ほどお話した“BLACK”以外では、“メルシー”ですね。数年前に仲のいい友達10人くらいで夜中に公園に行ったことがあって。ブランコとか滑り台で遊ぼうと思ったんですけど、バッグを置いて、スマホをしまって……という所作がたくさんあったんです。それがすごく空しかったというか、これが大人になってしまったということかと(笑)。どんなときもブランコにいきなり飛び乗れるのがかっこいいし、そういう無邪気さを忘れたくないなって思いながら書いたのが“メルシー”なんです。大事なテーマですね、自分にとって。──いきなりブランコで遊べる大人でありたい、と(笑)。音楽の制作においても、そういう感覚って大事だったりするんですか?頭の中で鳴ってる音だったり、「こういう感情を音楽にするなら、こういうやり方がいい」という引き出しは増えているんですけど、それを壊すのは難しいなと思っていて。“メルシー”はトオミヨウさん、“ニーナ”は久保田真悟さん(Jazzin' park)にアレンジを手伝っていただいているんですが、それは自分の方法論を壊してほしいということでもあるんです。決まったやり方があるのも嫌ではないし、素敵だなと思うんですけど、自分が飽きてしまったらどうしようもない。自分自身が楽しくやれて、新鮮だと感じられる方向に進んでいきたいので。