いつだって曲作りにまつわる本質を聞かせてくれる
あいみょんだが、この言葉はおお、と思った。あいみょんのベストアルバムに、“生きていたんだよな”から“君の夢を聞きながら、僕は笑えるアイデアを!”までのすべてのシングル曲が収録されているのは当たり前にわかるとして、その「カップリング」曲を全部収めて、「これで私のベストアルバムです」と差し出せるスタンスと、こんな言葉がさらりと生まれてくる静かな確信はほとんど同じ場所に根ざしていると思う。発表する以上、すべて「いい曲」であることが世界の前提だとしても、あいみょんは10年の長きにわたって、そのモラルを清々しく貫き通してきた。全43曲。ひたすらに名曲だけが注ぎ込まれるこの体験は、どこか信じられないほどに圧倒的だ。
メジャーデビュー10周年、二度目の甲子園ライブ、そして初のベストアルバムのリリース。そんな記念すべき夏を駆け抜けるあいみょんに、いつもどおり真正面から「音楽」の話を聞かせてもらった。
rockinon.comでは、発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』2026年10月号のインタビューから一部抜粋してお届けする。
インタビュー=小栁大輔 撮影=横山マサト
声は全っ然違いますね。やっぱ若い、本当に若い。おとなになっても声変わりあんねんや、みたいな(笑)
──まず、甲子園(AIMYON 10th anniversary LIVE 2026「、、、」IN 阪神甲子園球場)お疲れ様でした!ありがとうございました! 無事に終わりました。
──終わっての気分はどうですか?甲子園が終わったあとは一日移動して、またそこからいろんなことがあったので、余韻に浸れず、今日まで来ちゃってます(笑)。いいライブで、楽しかったなあっていうのはあるんですけど、武道館(AIMYON 10th anniversary LIVE 2026「、、、」IN 日本武道館)が待っているので、そこに向けてより勢いがついた感じはありますね。みんなからのお祝いの熱量を持って武道館に行けたらなって思っています。
──甲子園は、地元西宮っていうのもあるけど、あの祝福感? すごかったね。地元にあんなに有名でおっきいハコがあるって、マジで西宮に生まれてよかったって思っています(笑)。甲子園では今までもいろんなアーティストの方がライブされていますけど、やっぱり私は「甲子園が地元です」って言えるのがラッキーって思ってます。
──だって、ほんっとに地元なんでしょ?めちゃくちゃ。甲子園の前を通って高校とか行ってました(笑)。だから、今回もいろんな地方からたくさんの方が来てくださって、すごく嬉しかったですね。前回(2022年)の甲子園が11月だったので、今回は7月で夏祭りが2日間できた気分です。
──今日は、甲子園のこともさることながら、ついに出すという10周年のベストアルバムについて聞きたくて。ベストアルバムって、あいみょんは出さないイメージだったな。私も、ベストアルバムってなんのために出すんだろうかって考えたりして。特に、今はサブスクが主流になっているのもあって、ギリギリまで相談しました。それで、なんで出すかっていうと、普通に「うちらの思い出」って感じですね(笑)。10年っていうものを、わかりやすく手元に残しておけるっていう。もちろん、ファンのみんなに届けるっていうのもあるんですけど、私にとってのアルバム、功績みたいな感じで残せるなら、欲しいなあって(笑)。あとタイミング的にもここを逃すと、(収録曲が)とんでもない量になっちゃうから、作るなら今って感じでした。
──今まさに話してくれたように、ベストアルバムを出す意義って、サブスクで自分の好きなものを集めて聴ける今の時代においてすごく難しい。そんな中でアーティストはベストアルバムを出すために、たとえばファンが投票したり、いろんなコンセプトを込めることもできるじゃない?もう、私は純粋に(リリース順に)頭から置いていきました。
──ストロングスタイルで、“生きていたんだよな”から表題曲を並べていってね。ただ、シングルのカップリング曲を全部入れているところが、あいみょんだなあって思うんですよ。カップリング曲は、いつかまとめたい、並べたいなと思ってたので、それが叶ったのは大きいと思っています。表題と並べたら、どうしても見過ごされてしまうと思うので。でもまとめて盤にすることで、聴いてもらえる機会が増えるのであれば、それはむしろ、新曲出すぐらいの気持ちです。
──あいみょんがアーティストとして貫いてきたエゴやプライド、意地があるとすれば、そこなんじゃないかなって。カップリングっていう、見過ごされてしまいがちな曲を、私はベストアルバムという名前の作品に入れることができるんです、っていう。その絶対の自信を感じたけど、どう?ああ、そうですね。カップリングのほうが本当のことを歌っているとかよく言われがちですけど、それって仕方なくて。特にタイアップがある時は、表題はドラマの主題歌、映画の主題歌として書き下ろすので、カップリングにはドロドロした、テレビじゃ歌えないような楽曲を入れがちなんです。そこに自分の本質も隠れてはいます。もちろんタイアップの楽曲も私自身の曲ですし、自分が作りたい曲なんですけど、さらに奥深いところを突いているのはカップリングですね。それを⋯⋯「聴け!」って思ってしまいます(笑)。そういう気持ちは少なからずあるので、このタイミングで引っ張ってもらえたら嬉しいですね。
──表題曲はタイアップもあるし、とびきりの曲を並べるんだけど、でもカップリングと組み合わせた時に、世界観は違うけれど、どっちがおいしいかは決められないという取り揃え方で。ここまでそのルールをしっかりと守ってきたシンガーソングライターは、あいみょんをおいてどのぐらいいるのかと思うくらい。自分のカップリング曲をバーッと聴いて、どう思います?自分のことをたくさん歌ってきましたし、特に表題曲なんて何百回も歌っていますし。ベストアルバムの制作のマスタリングで全曲バーッと聴いた時に、自分はカップリングのほうが楽しかったですね。“マリーゴールド”、“君はロックを聴かない”は、毎日のように歌って、それはそれでいい思い出ですけど、ライブでなかなか歌えない楽曲も入っているので。あらためて聴くと、自分の曲やけど自分が作った曲じゃないみたいな新鮮味がありました。
──ベストアルバム、全43曲あるんですよ。あいみょん、これ連続で聴いた?チェックの時に聴きました。最初は飲まへんけどコーヒー頼もうかなって思ったぐらい、寝てまうかもしれないって思ったんですけど(笑)。でも、スタッフさんと「声、若~」「歌詞ヤバ~」っていいながら、ミュージックビデオも同時に流しながら聴いて、面白かったですね。普段のアルバムのマスタリングより全然ピンピンして聴けた感じがありました。
──僕も試しに43曲通してちゃんと聴いたんですよ。致死量のメロディ(笑)。結構時間かかりますよね(笑)。自分はバーッと聴くことで、自分の歌い方の変化や声の変化を面白がれた感じはしました。
──楽曲に対してのある種のドライさというか、そこもあいみょんらしいと思うんだよね。曲って自分が作ったものだけれども、言わば授かりもので、流れてきたものをちゃんとキャッチできただけの話です、みたいな。そういう、楽曲への涼しげな信頼感が満ちていて。そうですね。ちょっと他人事みたいな感覚で聴いていたかもしれないです。
──なんか思い出して泣けてきちゃう、みたいなことはないんだ。いやあー、そういうのはなかったですけど、楽曲だけじゃなくて楽曲を作っていた当時の生活、背景とかも覚えていて。“生きていたんだよな”を作った時はまだ実家にいてこうやったなって思うと、「頑張ってきてよかったなあ」ってじんわりすることはあります。けど、曲ではまだ泣いてないですね。はははは!
──今までのアルバムにも素晴らしい曲がいっぱいあるじゃない? そこからも抜粋して、本当にベストアルバムです、みたいにやることもできたでしょ。ああ、そのパターンの方もいらっしゃいますよね。でも今回はわかりやすくシングルコレクション的なことなのかなと思って。
──あいみょんの中では、いちばん大きな変化だなって思う部分と、いちばん変わってないなって思う部分は、どういうところなの?いちばん大きい変化は、声ですね。変わらないのは、好きな曲を書いてるなっていうところ。作り方は変わってないです。やっぱり年齢を重ねると自分も経験値が上がっていって、前半に収録してる曲は歌詞が若いし、比喩表現の使い方とかは、だんだん難しくなってたりとか。
──声は違うよね。全っ然違いますね。やっぱ若い、本当に若い。大人になっても声変わりあんねんや、みたいな(笑)。土台は一緒なんですけど、昔のほうがエネルギッシュ。いい意味で抑揚がないというか、ずっとおっきい声出してる、みたいな。
──それは、「こんな声出しちゃって、あの時は若かったな」みたいな感じなのか、「もうあの感じは出せないな」なのか、そのあたりはどう?あの時の声は、もう出ないと思います。なんで昔はあんなエネルギッシュやったのかと思うと、全く私のことを知らない人たちに届けるための制作やったからかなと。今の私のことをある程度知ってる人たちに届けるのとでは、全然気持ちが違うので。「私を見てくれ! 知ってくれ! この歌声を聴いてくれ!」っていうエネルギーが異常なほどあった。「売れたい! 目立ちたい! 知ってほしい!」っていう気持ちが、あの時はかなり──今もありますけど、そこの違いだと思います。
──初期の楽曲は、いろんなものが混然としてるというか、たとえば“生きていたんだよな”なら、テーマ選び、それからショッキングな現場の描写、そしてあいみょんの「私の歌を聴いてくれ」っていう歌声の強さ。いろんな要素を凝縮してぐしゃっとまとめてぶん投げるみたいな、ある種の捨て身の戦いみたいな(笑)。(笑)。なんかもう、自分のことを取り繕ってる暇もなくて。すべてを出して、「私はこういう曲を作ります」って表現しなきゃ届かないのかなって思ってました。あの時のがむしゃら感は、あの時にしか味わえなかったと思います。