“勿忘”のヒットから『紅白』出場へと至る2021年の活躍は感慨深いものになったけれど、それと並行してオーサムの音楽的ボキャブラリーの多様性を見せつけてきたデジタルシングルの連続リリースは、このニューアルバム『Get Set』へと結実した。無論、既発のシングル群はそれぞれにキャッチーさを追求したわけだが、それらを差し置いてヘヴィなロックグルーヴから高らかなコーラスへと跳躍する“On Your Mark”がアルバムの導入部に配置されている。シティソウルやヒップホップ、華やかなポストEDMといったトレンドを積極的に採用しながらメインストリームを邁進するオーサム。しかし、流行の記号を振り回せば良質なポップが生み出せるわけではない。オーサムの表現基盤はいつでも、貪欲極まりない音楽的探究心と実験精神なのである。ヨレたグルーヴ感に切々としたメロディが伝う“楽園”や、ジャジー＆オルタナロック的アンサンブルに男女ボーカルの語らいが映える“ランブル”を含め、全編がシングル級というこのキャッチーなアルバムの奥底には、マグマのように煮え立つ思考の凄味を感じる。（小池宏和）

『ROCKIN'ON JAPAN』4月号より