個人的にこの人は“ザ・レメディ(アイ・ウォント・ウォーリー)”の一発屋くらいにしか思っていなかったんですが、昨年1年間「ツアーなし、レコーディングなし、仕事なし」というオフ期間を経て生み出されたこの『ウィ・シング。ウィ・ダンス。ウィ・スティール・シングス。』を聴いたら、実は天賦の才の持ち主なんだということに気付いてしまいました。って、これじゃ小学生の感想文だけど、“レメディ”や“ワードプレイ”などのいわゆる「キャッチーで売れ線」な曲では見えてこなかった、フォークやアシッド・ジャズ、ファンクなどのジャンルも咀嚼して自分のスタイルにしてしまうカンの良さと豊かな表現力、それをあくまでもポップに昇華させてリスナーに「聴かせる」器用な歌唱力が、非常に解放的なオーラでもって混ざり合って、心にとにかく沁みてくる。シンガーソングライターとしてこんな色彩豊かな作品が作れるのは、ある意味理想なんじゃないか。
というわけで“レメディ”のPVの初々しいムラーズ君がかわいくて好きだったんですけど、本作での朗々と歌を紡ぐレイドバックした彼に今はより心惹かれてます。(林敦子)