ロックの巨匠のファースト・アルバム

長田進 with GRAPEVINE『MALPASO』
2010年06月16日発売
ALBUM
いわゆる「プロデューサーが作ったアルバム」だと思って聴くと、とんでもないから気をつけたほうがいい。鈍い鉛色の刃先が目の前の世界をざっくり切り裂き、時間という不可逆な流れに重い杭を打ち込む――そんなタイトル・ナンバー“MALPASO”。ギターとドラムだけのインストゥルメンタルが、むちゃくちゃカッコいい。このギターの迫力だけでも、本作を買う価値は十分にあると思ったが、ボーカルがまた素晴らしいのだ。

今年プロ・ミュージシャン暦30年を迎える長田進。尾崎豊、奥田民生、浜田省吾、岡村靖幸、井上陽水、Coccoなどとも活動してきたが、個人名義の作品は初めてだという。長く共同作業し、共演ライブもやったGRAPEVINEが息の合った見事なサポートを聴かせている。

今作を聴き、またJAPAN JAMのステージを観て気づいたこと。長田の音には「永遠」がある。「漂泊」がある。「反逆」と「愛」と「自由」がある。どれもロックに不可欠な本質だが、すべてを表現できるロックはあまりない。ミュージック・シーンの中心にして、美しき孤児・長田進の才能に改めて驚愕。(井上貴子)