カサビアンの進化論

カサビアン『ヴェロキラプトル!』
カサビアン ヴェロキラプトル!
今月号に掲載した来日インタヴューの中で、トムが思わず「ラッド」と口にしてしまうのだけど、一方でサージが「ラッド・ロック」というレッテルに猛反発しているのが面白かった。多くのUKバンドがセカンドのジンクスで苦悩する一方、カサビアンがそんなことはお構いなしに突進することができたのは、そんなバンドが抱える二面的なキャラクターゆえだと思う。既存のギター・ロックに退屈し、エレクトロやヒップホップを前提としたグルーヴで殴り込みをかけたファーストの時の彼らはまさしくハグレ者であり反逆者だったが、一方でストーンズやフーといったロック・クラシックスをこよなく愛する彼らは、そうした名作が永遠に放つ謎と向き合い、独自の進歩を遂げてきた。そして、既存のUKロックの系譜に対する相反する感情が一つの結論として自立性を持ったのが四作目の本作になる。

ソングライティングの幅は広がり、全曲がメロディ・オリエンテッドなコーラスを持っている。バート・バカラックの如き“グッバイ・キス”のメロディはこれまでのカサビアンであれば考えられなかった。同時に、カサビアンならではのグルーヴとサイケデリアはこれまでの中で一番クリアに鳴っている。前作に引き続きダン・ジ・オートメーターのプロデュースで、サウンドの考え方を更にモダンに推し進めたことで、一枚のアルバムとしての統一感を放っている。シーンの片隅から現れた彼らが、その反逆性をスポイルされることなく、こうして王道に辿り着いた事実に感慨を覚える。(古川琢也)
アウトサイダー流王者のなり方これまで、カサビアンというバンドのチャームポイント足りえたすべての要素が結晶化した4作目。ひとことでいうなら集大成。そして、以前より一回り大きく自らを更新する作品だ。
 
1stリリース後から前作まで、聴き手はつねにカサビアンに新たなアンセムの誕生を必要以上に期待してきた部分がある。だから、バンドにとっては必然だった『ルナティック・アサイラム』の実験性は、ラッディズムと真っ向から相対するような姿勢にとれたし、リスナーの嗜好によって評価が割れやすい作品でもあった。しかし、本作でカサビアンは、『ルナティック~』で開花させたもともとの資質=アーティスティックな面と、『エンパイア』で確立したUKロックの代表格の顔を併せ持った、理想的なバンド像を打ち立てている。しかも、妥協で中立を目指したのではなく、予め目標を「名盤をつくること」に置き、新たなエッセンスを加えながら実現させているのが心強い。これまでの作品からは考えられなかった、ノスタルジアすら感じさせるオープニング、トムのメロウな歌い上げとエヴァーグリーン(!)なメロディが新鮮な“ラ・フェ・ヴェルテ”といったナンバーがある一方で、雑食サウンドと圧倒的グルーヴで構成されたエピックなタイトルトラック、硬質なビートにトムの不遜なヴォーカルが映える“リワイヤード”といった、聴き手が思い描くカサビアンらしさを受け止めたような楽曲群もある。バンドも聴き手も、アンセムやラッディズムの呪縛から解放された、幸福な1枚だと思う。(羽鳥麻美)
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