かつて《わかったようにアタシのこと話すのはやめてよ》(“How crazy”)とナイーヴな衝動を封じ込めた2ndアルバムを『CAN'T BUY MY LOVE』と名付けていた通り、YUIにとって音楽とは、「自分」の感情と物語を歌に託すことで救いを求める行為そのものだった。が、同じく「アタシ」を主人公とした5thアルバムたる今作ではしかし、その視点の在り処は明らかに変わっている。《真っ赤な/Jealousy抱えて/違う自分に気づいている》(“HELLO”)、《返事ならしたはずよ/話すことはないわ》(“Separation”)といったこんがらがった感情や物語を胸の内に秘めた「ひとりの女性としてのYUI」自身を、愛ゆえに強がったり自分を抑えたり軋轢に苦しんだりするこの世界のすべての「あなた」たちと一緒に「表現者としてのYUI」が丸ごと抱き締めてみせる――そんなタフで雄大な包容力が、『HOW CRAZY YOUR LOVE』と題された今作には確かにある。困難な「今」を未来へつなぐ“Green a.live”からも滲んでいた表現者としての意志が、《きっと自分の為に/欲しいものなど何もないから》(“Get Back Home”)という言葉と呼応してさらに強く、美しく響く。
(高橋智樹)
YUIは問いかける
優れたシンガーソングライターの必須条件とは、周囲の雑音からおのれを守る強固なシェルターを持っていることだ。時代の空気に流されていては、時代の歌を紡ぐことは決してできない。どこか世の中から隔離された場所に立っていながら、それでいて大衆とコンタクトできる一筋の「回路」を発見できるかどうか、それがポップソングの優劣を残酷に決定する。今作『HOW CRAZY YOUR LOVE』は、時代の歌い手としてのYUIが、いかに唯一無二で、強靭かを物語った傑作である。メロディも、言葉も、アレンジも、すべてに無駄がなく、そしてどこまでも孤高だ。それでいて、このアルバムにはリスナーと繋がる「回路」がある。それが「問いかけ」という手段だ。《未熟なだけなの?》(“Separation”)、《犠牲になって消えてった感情?》(“Its My Life”)、《正義って何だろう?》(“Green a.live”)――YUIは、執拗にクエスチョンを我々に投げかける。究極はアルバムタイトルにある「あなたの愛情って、どれくらい?」だろう。2011年、これだけポップに「愛」を問いかけたアルバムは、他にないだろう。やはりYUIはどこまでも強い。
(徳山弘基)