この悲しみがロックを増大させる

クリープハイプ『おやすみ泣き声、さよなら歌姫』
2012年10月03日発売
SINGLE
クリープハイプ おやすみ泣き声、さよなら歌姫
場の空気を読まず、会話の流れをいきなり肉体関係に寄せることで距離を縮めようとする人間は嫌いだが、ことクリープハイプに関しては例外なのである。というか、あの《セックスしよう》は、空気を読んでいないわけでもなく、なおかつ人との距離を縮めようとする作為的なものでもない。もちろんエグさと毒がクリープハイプの魅力のひとつであることには同意する。でも、さほどエグくもなく、強烈な毒が入っていない今回のシングルにも、ちゃんと彼らの匂いがある。つまり現実を毒づく直接性に尾崎の本質があるわけではないのだ。彼が最も優れているポイントとは、時代の悲しさや陰りをロックというフィルターを通して歌えること。だからこそ、ここ最近のギターロック勢にはない「ブルース」がクリープハイプにはある。キャッチーなメロと疾走感溢れるバンドサウンドがありながら、この新曲は圧倒的に物悲しい。でもこの陰りこそが、クリープハイプを増幅させる。彼らは決して「異端」ではない。むしろ日本のギターロックにおける、ある種の「正統」として位置づけられると思うのだ。(徳山弘基)
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