80KIDZ 独自のやり方でシーンとつながるエレクトロ・デュオのセンスと哲学

80KIDZ

80KIDZの1年半ぶりの5作目のアルバム『5』がリリースされた。今回はRIZEのベーシストKenKenのワイルドなスラップベースと激烈なロッキン・エレクトロが核融合した“Gone”、京都の5人組HAPPYをフィーチャーした超ポップチューン“Baby”、パリのインディポップ・デュオJAMAICAのアントワン・ヒレールをヴォーカルに迎えた驚きのギターポップ風の“Good and Best”といった多彩なゲストアーティストとのバラエティに富んだコラボ曲7曲と、80KIDZらしいエレクトロチューンがバランス良く配置され、たぶんこれまでの80KIDZ史上もっとも聞きやすくポップなアルバムに仕上がっている。いつのまにかデビュー9年目を迎えた彼ら。エネルギッシュな若々しさはそのままに、表現の幅と深みを増した『5』は必聴の傑作だ。

インタヴュー=小野島大

Ali&「(KenKenとのコラボに関して)超高級なベースのサンプル集のライブラリをたくさん手に入れたような(笑)。すごく面白いなあと」

――1年半ぶりの新作です。タイトルはシンプルに『5』なんですが、これは5枚目のアルバムという意味ですか。

JUN そうですね。何も考えず。というか考えた挙げ句にこうなったという(笑)。

――なるほど(笑)。制作のきっかけはなんだったんですか?

JUN 前作の『FACE』で一応集大成というか、やりたいことができたので、そのあとどうしようかと考えたんです。ふたりでやってきて、これからどういう方向性にいくか。新しいことを何ができるかと考えた時に、コラボレーションをやってみたらいいんじゃないかと。それで去年の夏ぐらいからHAPPYとかKenKenさんたちとシングル3作ぐらいコラボレーションワークをしてアルバムにつなげていこうというプランを立てて、制作を進めていった、というのが『FACE』以降の流れです。

Ali& 『FACE』の“I Got a Feeling”とか“Can’t Sleep”は、ライヴではいつも、(アルバムで歌った)本人ではなくOBKRくんが歌ってくれてたんですよ。なので彼をフィーチャリングして1曲作りたいって考えもあったんです。今までのアルバムもフィーチャリングは何曲かあったんですけど、もっと踏み込んだ形でアルバムの柱にできないものかと思ったんですね。今まではアルバムのコンセプトがまずありきで、その中にフィーチャリングがあったんですけど。

JUN 以前は楽曲をある程度作り込んでから歌い手さんに投げるという形で、関係性が希薄――といってはアレなんですけど、コラボといっても歌ってもらうだけ、みたいな関係だったのが、今回はHAPPYとかKenKenさんとかOBKRくんも含めて、日本人が多いので、よりコミュニケーションが密にできて。アレンジの感じを相談して詰めたり、今までのコラボより深い感じの関係を持てたかなと。

――たとえばKenKenとのコラボはどういう形で進めたんですか。

JUN きっかけは数年前に六本木であったDJイベントで。アーティストとDJがコラボする企画だったんですけど、僕らは別のアーティストとコラボして、KenKenさんは田中知之さん(Fantastic Plastic Machine)とコラボしてたんですね。それでバックステージで出会って知り合いになって。その1年後ぐらいにKenKenさんが、僕たちが昔リリースしてた『SPOILED BOY』(2010年)ってEPを、もう3~4年も前のものなのにいきなりツイッターで絶賛してくれて。それがすごく嬉しかったんです。

Ali& すごい運命的なものを感じたんですよ。去年の2月ぐらいにコラボ企画の話をし始めたのを、まるで聞いていたかのように書いてたんで、これはチャンス!と思って。今までライヴで対バンとかはあったんですけど、そんなに親しくお話ししてたわけでもない。全然関係ない世界にいる方だから、ちょっと無理かなあとは思ったんですけど。

――ああいう、いかにもプレイヤー然としたミュージシャンとやるのは80KIDZとしても新しい試みだったんじゃないですか。

JUN そうですね。やったことなかったし、どうやっていいのかもわからなかった。不安でしたけど。

――具体的にはどういう作業だったんですか。

Ali& 僕らが作ったビートやトラックにあわせて、KenKenさんにアドリブで弾いてもらって。それを素材としてもらって、その素材からいろいろ構築して最初の叩き台となるデモを作って。そこからまたディスカッションして。

JUN 最初メールを2~3回やりとりすればできるかなと思ってたんですけど、KenKenさんも忙しくてなかなか時間がとれなくて。なのでどこかスタジオに入って集中してやろうよって提案が来たんです。ライン録りでいいからJUNくんの家に行くよって話になって。2日間で3曲録って、アレンジもその場で相談して作っていきました。コード進行やフレージングについていろいろ意見交換しながら進めていきましたね。

――メールでデータのやりとりをするより、そのほうが良かったんじゃないですか。

JUN そうそう。結局そうなんです。ああいうミュージシャンの方は実際に直接コミュニケーションをとって相談しながらやりたいみたいで。

――どうでした、楽器のうまい人とやるのは。

JUN いいすねえ。めちゃくちゃ楽しかったです。

Ali& 超高級なベースのサンプル集のライブラリをたくさん手に入れたような(笑)。

――そこですか(笑)。

Ali& 僕らってそういう人たちじゃないですか。もともとサンプリングミュージックに憧れて、デスクトップミュージックだったりPCミュージックを始めて。もちろんバンドもやってましたけど、そこに新しい時代の何かを感じて始めましたからね。

――なるほど。

Ali& で、今回KenKenさんがめちゃくちゃすごくて、どんなサンプル集よりヤバいよね、みたいな感じだったんですよ。KenKenさん自身も「オレはとにかくガンガン弾きまくるから、それをサンプルみたいにガンガンいじっていいから」みたいに言ってくれて。すごく面白いなあと。10お願いしたら15ぐらい返ってくるイメージなんですよ。僕らが欲しいのが10だったら、残りの5は削ぎ落としても全然いいよって言ってくれる。すごくやりやすかったですね。

――彼はたぶんそういう曲の作り方に慣れてるんじゃないですかね。

Ali& うん、そんな感じがしました。

――セッションで曲を作るバンドってそんな感じだと思うんですよ。「今弾いたそのフレーズいいから、それを繰り返して使おう」みたいな。

JUN ああ、なるほど。

Ali& 何も考えずにいきなりステージ立ってセッション、とかいっぱいありそうだし、このビートがきたらこれ、みたいに反射的に出てくるんだろうね。

――そういう人とやった経験はすごく刺激になりますね。

JUN そうですね。最強のソフトシンセをいただいたような(笑)。

――やっぱりそういう発想になるんですね(笑)。

JUN (笑)良くも悪くもそういう感じはあるかもしれない。

Ali&「最終的に80KIDZの名前で出すわけだから、負けられないなって(笑)」

――ヴォーカリストとのセッションは、トラックを渡して歌を入れてもらうという作業ですか。

Ali& そのパターンが9割で、JAMAICAのだけ、向こうが弾き語りで歌ってきたものを僕らが肉付けして、という。

――ああ、なるほど。ギターポップでしたもんね。

Ali& (笑)そうすね!

――どっちがやりやすかったんですか。

Ali& うーん、向こうが弾き語りすると向こうに主導権があるでしょう。僕らが完全にがっつり組み替えたいとか、ここはまったく使いたくないとか、そういう場合もあるじゃないですか、ほんとは。でも弾き語りの場合、ある程度骨格はできてる。そこに僕らの色をどのぐらい無理やり突っ込んで、そして最終的に彼の特色を僕らで打ち消すか、みたいな感じだったんで。

――(笑)。「打ち消す」なんだ。「合致させる」とか「融合させる」じゃなくて(笑)。

Ali& 最終的に80KIDZの名前で出すわけだから、負けられないなって(笑)。

――そんなとこで張り合ってどうするんですか(笑)。

JUN JAMAICAの人はコードがフレンチタッチというか、僕たちは絶対使わない、出てこないコード進行なんです。

Ali& かなり複雑なコード進行なんですよ。ポップミュージックってこういうものなんだなと。それが難しかった。

――勉強になったんじゃないですか。

Ali& なりましたね! 特にこういうフレンチタッチのロックとか、エレクトロの時代のロックみたいなものは、サウンドメイキング的な部分はある程度わかってたんですけど、今回ソングライティング的な部分もわかった気がしましたね。

JUN ああいう音楽のコードまで自分で拾って解析したことはなかったけど、弾き語りの音源をもらってそれをアレンジしていく中で、ここはこういう流れでコードが構成されて、みたいなものが目に見えてくるじゃないですか。絶対自分ではやらないし、フランス人っぽいねちっこさ、じゃないけどエロさがあって(笑)。なかなか次のコード進行にいかないじらし感、じわじわ感がフランス人らしさなのかなと思ったり。

――なるほど。

Ali& “Baby”の場合はHAPPYと一緒にリハスタに入って、これもサンプル方式でやりました。いっぱい歌っていろんなパターンのメロディを出して、「これはこのメロディのほうがいい」「ここはRicが歌ったほうがいい」とか4人(Ali&、JUN、Alec、Ric)でいろいろディスカッションしながら作っていきましたね。

――これ、いい曲ですね。

Ali& ありがとうございます(笑)。もう、めっちゃキャッチー。アルバム全体としてもかなりポップなものになってると思います。

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