2012年結成、九州出身の4人組バンド、雨のパレード。活動拠点を東京に移して以後、精力的にライヴ活動を行ってきた彼らに対する注目が、にわかに高まっている。昨年10月の2ndミニアルバム『sense』に続く3rdミニアルバム『new place』は、音楽として、アートフォームとして大きなレベルアップを果たした1枚。彼らが持っている大きなヴィジョンが、はっきりと形を表した作品だ。そのリリースを機に、雨のパレードとはなんぞや、さらにいえば、その中心人物たるヴォーカリスト、福永浩平とは何者なのか、に迫るのがこのインタヴューである。福永の独特のイメージと言語感覚こそが雨のパレードの核。そこに秘められたパーソナリティと強い意思について、じっくり語ってもらった。
インタヴュー=小川智宏
思ってる以上に、僕、音楽大好きなんですよね(笑)。周りの声聞くと、「みんなこのぐらい音楽好きだと思ってたのに、そうでもないんだ」みたいな
――雨のパレードとしてスタートしたのはいつ頃ですか?
「ちょうど3年前ぐらいですかね。上京してからですね。地元の鹿児島で別のバンドやってたんですけど、そこからドラムとギターを連れてきて、ベースをこちらで紹介してもらって。ちなみにベースを紹介してくれた人は、GLAYでドラム叩いてるToshi Nagaiさんなんです(笑)」
――え、そうなの? すごい。
「Toshiさん、ジャズをやっていらして、地元でジャズ界隈と仲良くしてたんで紹介してもらって。で、上京してから連絡させていただいて、ベース紹介してくれるって前からおっしゃってたんで。それで亮ちゃんつないでくれたんです。今でもお世話になってます」
――そもそも福永くんが音楽をやりたいと思ったきっかけというのは?
「僕は歌なんで、みんな意識せず歌ってると思うんですよ、ちっちゃい頃から。その延長線上って言ったらあれですけど、高校の時にちょっと弾き語りとかし始めて。でも学校に軽音部がなかったんで、自分で部を作ったりとかして。それで今に至りますね」
――いろんな表現の分野というか、自分を表現する方法ってたくさんあるじゃないですか。実際、雨のパレードにもペインターがいたりジュエリー作家が参加していたりして、ヴィジュアルも、それ以外のアートにも興味を発揮しているわけですよね。その中で、音楽というのはどんな意味を持っているんですか?
「芯の部分は音楽で、そこからブレてはいけないと僕は思ってて。たとえばアートワークめちゃめちゃこだわってるバンドがいても、音楽がしょぼかったらそれについて来れてないし。僕ら、たとえばジュエリー作家がいたりとかペインターがいたりとか言ってるんですけど、これっで音楽がブレてたらすっごいダサいことだと思うんで。『1番は音楽』っていうのは自分のなかでありますね」
――なぜ音楽なんでしょうね。
「何ででしょうね。でも思ってる以上に、僕、音楽大好きなんですよね(笑)。周りの声聞くと、『みんなこのぐらい音楽好きだと思ってたのに、そうでもないんだ』みたいなちょっとがっかりした部分もあって、たぶん思ってる以上に自分は音楽が好きなんだなあって。だから自然と中心にきてるのかなあっていうのはありますね」
――初めて衝撃を受けた音楽って何ですか?
「小6の時やってた『プライド』ってドラマでクイーンが主題歌になってたんですよ。それで初めて買ったアルバムがクイーンのベスト盤で、めっちゃ聴いてましたね」
――“I Was Born To Love You”だよね。じゃあクイーンから入っていったんだ。
「クイーンのベストアルバムをONKYOのコンポでずっと聴いてました(笑)。お年玉でコンポ買って。そこもみんなとちょっと違ったんで、今思えば『音楽好きだったのかな』って。そこから、とりあえずレンタルCD屋さんのランキングをそのまま全部借りて聴いて、買って聴いてみたいなことばっかりしてましたね。で、だんだん好みがわかってきて、『僕、ジャズ好きなのかな』って思ってる時期があって、ジャズを借りようと思ってジャズコーナーに行って最初に借りたのがハービー・ハンコックっていう人で。めちゃめちゃ前衛的なジャズなんで『俺はジャズ好きじゃないのかも』って離れた時期があったんですけど(笑)。でも両親の影響でジャズヴォーカルのCDとかよく聴いてました。サラ・ヴォーンとか。それで『そういうバンドしたいなあ』と思い始めたんですけど、いかんせん知識と共通言語が少なかったっていうのと――6歳上の人たちとかとやってたんで。あ、ウチのギター、6歳上なんですね(笑)」
――そうなんだ(笑)。
「なので、ペーペーが感覚で言えないっていう感じで、結構言いなりになっちゃって歌モノ的なのをやってたんですけど。たぶん自分自身も明確に見えてなかったのかなっていうのはあって、一応コンテスト的なのに出たりとかしてたんですけど、それも『違うな』と思って。高校出て、一回音楽の専門学校に行ったんですよ、地元の。で、1年間通ったんですけど、ライヴハウスでやっているのと学んでやる音楽に熱量の差を感じて1年で辞めて。で、結局その時のバンドが崩れて、もともと上京するつもりだったんで、それでドラムとギターに声掛けて上京する感じになりました」
――大澤さんと山崎さんに声掛けたっていうのは、そのふたりとはシンクロしたものがあったって感じ?
「ドラムの大澤は同い年で、音楽の専門学校の時に一緒だったんですよ。趣味も近いっていうのがあって、その時期だったらジャミロクワイとかガンガン聴いてたんで、シンパシーあったんですよ」
――話聞いていると、明確に言語化できないにせよ、もともとやってたバンドの時から福永くんのなかには描きたいものというか、鳴らしたい音のイメージはあったんですよね。
「ありましたね」
――それは敢えて説明するならどういうイメージだったんですか?
「時期によってやりたい音楽がかなり変わってきてると思うんですけど、前やってるバンドだったら自ら『ブラック寄りなものにしたい』って言ってたんで、ジャミロクワイみたいなもの聴いて言ってたんですけど、うまく表現できなくて。技術はあったんですけど感覚がズレてて。今は比較的やりたいことをちゃんと言えるし、指示もいろいろできるんで」
やりたいことをやってきて、気付いたら「あれ? 対バンする人いないな」みたいな。困りますよね(笑)
――東京に出てきてメンバーも替わり、雨のパレードとしてスタートしていくわけですけど、雨のパレードみたいなバンドって他にどこにもいないじゃないですか。
「そうなんですよ、そうなんですよね(笑)。対バンが一番困るんですよ」
――たぶん、どこに置いても浮いたと思うんだよね。
「やりたいことをやってきて、気付いたら『あれ? 対バンする人いないな』みたいな。困りますよね(笑)」
――先輩のバンドでも同世代でもいいんだけど、「通じるもの持ってんなあ」って感じることってあるんですか?
「楽曲的にはないっすね(笑)。好きで言ったらいっぱいいるんですよ。でも……孤独ですよね(笑)。この前のイベントも自主企画初めてやらせてもらって、『いろんな表現したいな』と思って演出での試みとかも『絶対誰もしてないだろうな』っていうことを試してみようと思ってやったんですけど、はまるバンドいないんですよね、他に。だから対バン組むの難しかったです」
――なんで孤独なんだと思いますか?
「それは楽曲的にってことですか?」
――楽曲的にも、あるいはバンドとしての佇まいもそうだけども。だって、福永くんのなかでは自分たちのやっていることっていうのはすごく普遍的なものだと思ってるわけじゃないですか。でもなぜか浮いている。
「何ででしょうね。影響されてる音楽――結構同世代の海外の人たち意識して作ってるんですよ。そこを聴いている人たちがあまりいないのかなあ。アウスゲイルとか、ライとかあそこらへんの人たちも好きで、最近だとアラバマ・シェイクス、チェット・フェイカー、ハウ・トゥ・ドレス・ウェル、ロード……サム・スミスもすごいよかったです。ソークも最近だといい、トロピックスとかヴォルケーノ・クワイアーも――」
――やっぱり、どこか黒っぽいっていうか、ソウルだったりブルースだったりのニュアンスをモダンにブラッシュアップしているアーティストって感じだよね。
「ああ、なるほど。それはイメージ近いかもしれないですね」
――確かに雨のパレード聴いてても、ハイパーな音の部分と土着的なグルーヴの部分が両立してる感じがあって、すごい独特だなあと思うんですよね。
「楽曲もセッションから作ることが多くて、セッションの段階で僕もかなりいろいろ口出しをして寄せてもらったり個性を生かしたりみたいな感じで作ってるんで、グルーヴとか出てくれてたらありがたいです。前は僕が弾き語りで持ってきてたんですけど」
――今のメンバーとやるとそのイメージっていうのはちゃんといく感じなんですか?
「優秀なんで、メンバー(笑)。ベースはとくにネタとか持ってきてくれるんですけど、感覚が近くて」
――それぞれ、どんなメンバーなんですか?
「そうですねぇ、ひとりずつ一言で言っていくと、ドラムの大澤はバカで(笑)――」
――いきなり(笑)。
「バカです(笑)。ギャップ、ハンパないすよね、見た目からの。接続詞がすぐ『でも』とかになるんで、何言ってるかわかんなくなっちゃうんすよね。で、ベースは天才肌でちょっと掴みどころがない感じ。ギターは社交性のあるアホですね(笑)。僕自身は……何だろうなあ、客観視できないなあ。(マネージャーに)どう?」
マネージャー「感覚派ですね。ツアーの移動の車内でいきなり『美しいものしりとりしよう』って」
――何それ。
「テーマ決めてしりとりすると楽しいんすよ。『男気を感じる言葉』とか(笑)。試してみてください」
――(笑)。まとめると、雨のパレードはバカとアホと天才肌と感覚派によるバンドっていうことですよね。ちゃんと考えて動くタイプがひとりもいないですね(笑)。ちょっと不安になりますよね。
「ふははははは!」