「俺の曲は、俺なんかよりも尊いものやねん」──バズマザーズ、4年ぶりのアルバム『普通中毒』と成長を語る(2)
俺みたいに極端に視野が狭いやつしか作れない音楽は作れたと思う
――曲が求める姿をシンプルに出してあげられるようになってきたということでしょうか?
「それは成長としてあるかもしれへん。出すようになったというより出せるようになった。俺はすごく頭が悪くて、すごく視野が狭くて。しかもそれが極端だから、いろんなことに気づくのが遅い。めちゃくちゃ一生懸命やってるつもりやけど、こうしたらもっとよかったのにって後々気づくことがたくさんあって。まあ誰しもそうかもしれへんけど。シンプルにっておっしゃってたのは、そうやと思うな。本来始めからできたんやけど、なんか、成長だと思います」
――成長しているとしたら、そんな自分のことをどう思います?
「いいなって思いますよね」
――だったら、今まで狭かったとしても全然間違いじゃないですよね。
「狭いことは全然間違いだとは思ってない。だって俺みたいに極端に視野が狭いやつしか作れない音楽は作れたと思うから。それはそれでよかったんかなと思ってるし」
――あと、『普通中毒』というタイトルの意味を訊きたいのですが。
「コンセプトアルバムってあるやんか。例えばザ・ビートルズの『SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND』とか。そういうコンセプトアルバムなんやったらアルバム名って絶対要ると思うねんけど、アルバム名ってもう記号やんか。識別するためのもの。だからレッド・ツェッペリンとか潔いと思うし、ほんまはそうしたかってんやんか。でもツェッペリンもやってるしZAZEN BOYSもやってるし。ただ記号だとしても、言い得て妙なものは付けたいってなった時に、今の自分って普通中毒なんやなってすごく思って。
セッションで曲作る時にさ、ウチってイントロから作んねんな。そっから次の展開にする時に、どうしたら普通かなって。要するにこうしたほうがカッコいいんじゃないっていうのは普通じゃないねん。普通って、本当に自分の中のイメージがそのまんま鳴ればそれが普通やねんきっと。昔から普通じゃなかったから。でも理想は普通やねん。それが音楽を作る上で一番ナチュラルな状態やと思ってんやんか。ありのままの、プレーンな状態。それを出したかったのもあんのかもしれへんな。まずトッピングなしからいきたいみたいな。びっくりドンキーの普通のハンバーグって食うたことある?」
――ないんですよ。
「ないやんね! とりあえずチーズ乗っけるやん、おろしとか。なんやったらカレーとか。よう考えたらあいつのポテンシャルで食ったことないわってことに気づいて。それと同じように今まではトッピングから食べてもろうてたって部分が意識的にあって。そういう括りに無理くり名前を付けるんやったら今回は俺、『普通中毒』やったんやなと」
自分の最大公約数を知りたいと思うところはある
――“豚の貯金箱”あたりも本当に普通のエイトビートロックですもんね。でもそれで堂々と勝負するっていうのはなかなかできることじゃない。
「別に誰でもできることでいいものを作れる自信はあったんかな。考えて作ったほうがいいものとそうでないものがあるというか。ラブソングを作ろうってなったら、君が好き、乳首を舐めたい、ブラのホックを外してもいいかい、じゃあかんわけやんか。星降る夜君の冷えた手を温めたい……みたいなほうがええやん。それはひとつのテクニックやん。だから題材によってやけど、“豚の貯金箱”は頭の中で鳴ったそのまんま。アレンジも一切してないし、特に練習もせずにレコーディングの日に『はい、あれやってみましょう』みたいな」
――それで十分いいものができると。
「アルバムを作るって、曲を作るって、普通に作るってことやと思うねん。だから本来あるべき姿やと思うねんな。たぶんキング・クリムゾンもイエスも考えて作ってないと思う。いいものを作ろうとしか考えてないと思うねんな。こう来てこう行くのが気持ちいいと思う、でいいと思うねんな。今回はそれがやりたかったし、やっと楽しんで作れた感じがあるかもしれへん。これからもそうしていきたいわ。まあ俺毎日変わるからわからへんけど」
――これからの目標はありますか?
「どうなっていくんやろうな、なるようになるんやろうな」
――では、ひとまずこの1年はどんな年にしたいですか?
「やれることは全部やりたい。知ってもらいたいねんな。っていうのは名前を売りたいんじゃなくて、たぶん俺たちって別に難しいことをしてるでもないし、高尚なことをしてるわけでもない。ホントにただのポップスやから。もっと好きになってくれる人はいるんじゃないかなと思うねん。みんながみんな新しい音楽ないかなって探してるわけでもないやん。それは当たり前で。だって娯楽だから。でも娯楽としてこんなんがおますねんでっていうのは広めたい。本来好きになってくれるはずの人が知らんままで終わっちゃうっていうのはあまりにももったいないと思う。自分の最大公約数を知りたいと思うところはあるね。もしかしたら自分は才能がないのかもしれないけど、それがあると思うから俺たちはやってるわけさ。勘違いかもしれないよね、でも知りたいからさ」
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